豪ドルは米ドルや円に対して一旦強含みの展開に
前回(5月11日)のコラムで注目した豪ドル/円が、5月18日以降、節目の70円処を上抜ける動きとなりました。5月19日には89日移動平均線を上抜け、一時的に71円台に乗せる場面も見られています。
もちろん、ひとたび重要なチャートポイントを上抜けたからといって、そのまま強気一辺倒の展開が続くとは限りません。かつて豪ドルの人気を支えていた高金利の魅力は大幅に低下していますし、実際に保有していた豪ドル/円のポジションを解消する個人投資家も少なくないようです。
むろん、このところ足下で高まっている米中対立の行方に対する懸念というのも、投資家に豪ドル買いをためらわせる要因の一つと見られます。
それでも5月18日以降、豪ドルは米ドルや円に対して一旦強含みの展開となりました。それは、何より世界の各国・地域で経済活動の再開に踏み切る動きが広がり、それに伴う世界景気回復への期待が市場で盛り上がっていることによるとみていいでしょう。
ワクチン開発への期待で市場は楽観ムード
さらに市場のリスクオンムードを勢いづけたのは、新型コロナウイルスワクチンの開発について幾つかの有望なニュースが伝わったことでした。
以前から本コラムでも有力視している米モデルナ社のワクチンは、最近の小規模試験のデータから「免疫システムを体内で作り出す可能性がある初期兆候が確認された」と伝わり、結果、5月18日のNYダウ平均は一時1,000ドル超の上昇を見ました。
その後、試験結果の信頼性に疑問を呈する向きもありましたが、モデルナ社は追加データを後日公表するとしているうえ、5月22日には米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長が同開発に楽観的な見方を示しています。
加えて、英オックスフォード大学と製薬会社アストラゼネカが開発を進めるワクチンについても「世界で最も実用化に近づいているものの1つ」と伝わり、世界的な経済再開に伴う景気回復への期待を一層高めています。
その結果、米・日の株価指数が3月下旬にかけて見られた急落後の戻り高値を連日試すような動きを見せていることも、市場の先行き楽観ムードを継続させることに一役買っていると言えるでしょう。
米中問題より重要なのは追加的な景気対策の行方
お分かりのとおり、このところトランプ米大統領が強硬な対中姿勢を堅持していられるのは米株価が底堅く推移しているおかげです。
仮に今後、米中対立の先鋭化に対する懸念が米株価を再び大きく下落させることとなれば、過去にもそうであったようにトランプ米大統領は中国にある程度歩み寄る姿勢を示すものと思われます。むろん中国側も両国関係が後戻りできなくなるような事態に至ることを望んでいるとは到底思えません。
もちろん、市場は米中問題に対してときにマイナスの反応を過剰に示すこともあり得ると思われますが、より重要なのはやはり各国・地域における追加的な景気対策の行方です。
その点、FRB(米連邦準備制度理事会)がマイナス金利の導入に否定的な姿勢を示しているのに対して、ECB(欧州中央銀行)は3月に導入を決定した7500億ユーロの資産購入について、次回6月4日の理事会で規模拡大に踏み切る可能性もあると見られています。
こうした実情を鑑みると、やはり基本的には対ユーロでのドルの優勢が暫く続きやすい状況であると見られます。
ユーロ/米ドルは先週、節目の1.1000ドルを試す動きとなったものの、結局は伸び悩んで押し戻される展開となりました。当面は、なおも1.0800~1.1000ドルのレンジ内を行き来する展開が続きやすいと見ることができ、そのなかで小まめに短期的なチャンスを狙う戦略が有効と考えます。
また、米ドルは対円でも比較的強気に傾きやすいと見られ、目先は108円処を上抜けるか否かが一つの焦点となります。