経済活動再開で強まるリスク選好の動き

5月8日、日経平均株価とNYダウ平均は前日終値比でともに大幅高となり、それぞれに20,000円や24,000ドルといった重要な節目を終値で上回りました。その背景には、欧米の一部で経済活動を再開する動きが広がっていることを好感するムードの高まりがあり、実際に足下でVIX(恐怖)指数が30を下回ってきていることからも窺い知れるように、全体としてはリスク選好の動きが強まっています。

米国では4月末に行動制限の期限が到来し、少なくとも30超の州で徐々に規制が緩和され、段階的に経済活動を再開する方向性が示されています。また、5月7日にはドイツのメルケル首相が5月9日からすべての商店の営業再開を許可すると発表し、イタリアでも5月4日から製造業や建設業などが再開しています。フランスでも本日(5月11日)から厳しい外出制限が緩和されることとなっており、こうした動きを市場は歓迎しています。

もちろん、あまりに拙速な「再開」はウイルス感染の再拡大(第2波)につながる可能性があり、そのリスクへの警戒がいまだ市場には残っています。また、ここにきて再び米中間の対立が先鋭化するとの懸念も高まってきており、まだまだ手放しでリスクオンの流れに乗るというわけにも行きません。ただし、5月8日に米中間で閣僚級の電話会談が滞りなく行われたことは、とりあえず米・日の株価にとっても支援材料となりました。

経済指標や景気データは材料視されにくい状況

一方、米バイオ医療ベンチャーのモデルナは5月7日、同社の手掛けるRNA(リボ核酸)ワクチンが「近く、治験の第2段階に入る」と発表。この治験と並行して生産開始に向けた準備も進めるとしており、その安全性や有効性が認められれば、今夏をめどに開発の最終段階にあたる治験の第3段階に入るとも伝わっています。

既知のとおり、日本でも新型コロナウイルスの治療薬である「レムデシビル」を政府が5月7日に承認し、5月中には「アビガン」も承認に漕ぎつける見通しとされています。このように、新型コロナウイルス感染の治療薬やワクチンが早期に有効性を発揮する可能性に期待するムードというものも、金融相場の先行きを左右する手掛かりとしては大きいと言えるでしょう。

目下は、主要各国の経済指標や景気データは投資判断の材料としてあまり有用ではありません。5月8日に発表された4月の米雇用統計の悲惨な結果も「予想していたほど酷くはなかった」として、むしろ発表後にドルは一旦買い直されました。

つまり、今しばらくは「各国における経済活動再開の状況」と「治療薬ならびにワクチンの開発・承認・生産・出荷の状況」が市場で材料視されやすく、それを受けた各国の株価や原油価格の動向などを為替市場が横睨みしながら推移するという流れが続くということになりそうです。

豪ドル/円は強気の展開

以上のような事柄を踏まえて考えるに、当面特に注目しておきたい通貨ペアの一つは豪ドル/円ということになるものと思われます。

既知のとおり、豪ドルは世界全体に漂うムードや原油価格の変動、米中関係の動向などにも左右されやすい通貨です。足下では、豪ドル/円が重要な節目の一つと考えられる70円処まで値を戻す展開となってきており、同水準をクリアに上抜けるかどうかが目先は非常に興味が惹かれるところです。

【図表】豪ドル/円(日足)
出所:筆者作成

4月23日以降は一目均衡表の日足「雲」をクリアに上抜け、目下は日足「雲」上限が下値をサポートしています。日足の遅行線も日々線を上抜けてきており、基本的には強気の展開が続いていると見られます。

むろん、70円処が目先の上値抵抗になったり、米・日株価が一旦調整したりする可能性もあると思われますが、仮に豪ドル/円が上値余地を拡げる展開となれば、それは米ドル/円やクロス円の上値期待にもつながると見られます。