節約は嫌いだ
私は節約が嫌いです。きっと多くの方が、「当たり前でしょ」っておっしゃるかもしれませんが、意外に節約が好きという方も多いものです。フィデリティ退職・投資教育研究所が行った「第3号被保険者の退職準備状況」(2016年)によると、アンケート回答者1万1952人のうち、55.6%に当たる6651人の方が生活の改善策として「生活を切り詰めて支出を抑える」と回答しています。節約派が過半数を占めているのです。
節約派の特徴は家計簿をつけることではないでしょうか。節約は家計簿から始まるとすれば、家計簿にも問題があります。あなたには、節約や家計簿、それ自体が「目的」になっている傾向はありませんか。何のために節約をし、何のために家計簿をつけるのかが忘れられて、節約や家計簿つけそのものが「目的」になっていませんか。つまり、そこで満足してしまうことで、「超高齢女子社会」に対応できない「老後難民女子」にならないための大切な対策である資産形成につながっていないように感じます。
収入―資産形成=消費で考える
老後資金を準備するために「節約で資産形成の原資をねん出する」という考え方をちょっとカッコよく説明すると、「収入-消費=資産形成」ということになります。毎月のお給料から節約をして消費を抑え、残った資金を資産形成に回すという考え方です。この場合、節約をどれだけ頑張るかが資産形成の成否にかかわってくるわけですから、がんばって節約をし続けていく必要に迫られます。
しかし、節約は楽しいものではありません。だから、なかなか長続きしません。何か臨時の出費があると、今月は「友だちの結婚式があったら」「お誕生日だったから」といった理由をつけて見逃して、資産形成の金額を減らすことになります。こうした「仕方がない」として出してしまう費用が意外と多いことは、みなさんもきっと経験があるはずです。これでは資産形成は難しいと言わざるをえません。
そこで私の提案ですが、「収入-消費=資産形成」を「収入-資産形成=消費」に変え、積立投資で資産形成をしてはどうでしょう。お給料から消費をして残った資金を資産形成に回すのではなく、毎月のお給料からまず資産形成の費用を一定額先にとりわけます。そして残りの金額で生活するという考え方です。
「収入-資産形成」をお給料からの天引きで行う仕組みを作ってしまえば、あとは自動的に資産形成と節約を結びつけることができます。要するに、節約の結果で資産形成をするというものではなく、資産形成の後に節約を考えるという形にするのです。
この方法だと、「手取り金額が、資産形成の費用を引いた後の金額」になります。最初の頃は、「これだけで生活するのは厳しい」と思うかもしれません。ですが、生活に定着してくれば、節約の精神的なプレッシャーも軽減されます。何しろ「がんばって残さなければいけない」ではなく、「この資金は使いきってしまってもいいんだ」と考えられるのは、どれだけ気楽なことでしょう。
では、資産形成として何をすればいいのでしょうか。勤務先に財形貯蓄制度があれば、それを活用するのもいいでしょう。もう少し積極的に投資をするなら、積立投資という少額から毎月一定額ずつ投資をする方法もあります。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などは非課税制度を利用した有効な資産形成方法です。ともあれ、生活を改善する方法として、「収入-積立投資=消費」の実践を強くお勧めします(資産形成の考え方は弊著「老後の資産形成をゼッタイ始めると思える本」(扶桑社)をご参照ください)。
子どもにお金の話をしよう
もう一つ日々の生活の中で大切にしておきたいのが、子どもたちに対するお金の教育です。自分の老後が大変だというのは前回のコラムで書きましたが、その課題は自分たちの子どもにも当てはまります。皆さんと同様に子どもたちにもお金のことは重要になるはずです。
そこでひとつ質問です。皆さんは、お子さんにご自身やご家族の年収を話したことがありますか?私は大学で講義や講演をする際、学生に大学の授業料と親の年収を聞くようにしています。授業料が親の年収の何割くらいかを知ってもらおうと思って始めた質問です。すると、授業料を知らない大学生が半分程度いることがわかりました。一方で、「親の年収を知っている」と答える学生は2割くらいでした。親の年収を知ることや、大学の授業料を知ることは、自分が親になるときに意味のあることではないでしょうか。子どもに我が家の年収を、家計の状況を話してあげることが、まず家庭でのお金の教育の第一歩のように思います。
そのうえで大学に入ったらクレジットカードを作らせましょう。カードを作るには、銀行口座を開設する必要があり、自分の印鑑を作る必要もあります。ここから始めて、カードを作ればどうやって使い、どうやって管理し、どうすれば引落日に十分な残高を銀行口座に残しておけるのかを自分で考えて実行せざるを得なくなります。こうしたことは、将来のお金との向き合い方について、多くの示唆を与えてくれるはずです。
次回は2019年に話題になった「老後2000万円」問題から、自分の退職後の生活資金について考えてみましょう。