直近の価格動向
J-REIT価格は、4月中旬から落ち着きを示している。東証REIT指数で見れば1,550ポイントを挟んだ展開となっている。
また、東証REIT指数は2019年末比で30%近い下落状況だが、銘柄によっては価格が大幅に回復しているものもある。特に物流系銘柄の価格回復は顕著であり、例えば4月以降は最も利回りが低い(投資家の評価が高い)銘柄となっている三井不動産ロジスティクスパーク投資法人(証券コード3471)の価格は、2019年9月末時点と同じ水準にまで回復している。
この頃の東証REIT指数は2,000ポイントであったことを考慮すれば、まだ一部の銘柄だけといえるもののJ-REITに対して投資家の需要が戻ってきていると言えるだろう。さらに物流系銘柄は、4月22日時点で利回りが低い上位10銘柄のうち5銘柄を占める状態となっている。
増配余地もある点が物流系銘柄人気の理由
物流系に特化した銘柄は9銘柄。これらはすべてJ-REITの平均利回りを下回るほど投資家の人気が高い。その理由として、景気悪化の影響に対する懸念が投資家に広がる中で、物流系銘柄は増配の余地が大きいことが挙げられる。
物流施設は、長期の固定賃料契約をテナントと締結していることが多く、もともと収益の安定性が高い用途だ。さらに新型コロナウイルスの影響という点で見れば、外出自粛が求められ、政府の専門家会議でも人との接触を8割削減するための方策のひとつとして通販の利用が挙げられている。
このように、現在は物流施設を利用するテナントの需要がますます高まる状況があると言える。つまり、現テナントが退去しても、後継テナントは直ぐに決まると考えられるために収益基盤が盤石な状況となっている。
加えて、財務面でも借入金の返済期間の分散や金利の固定化比率が高く、保守的な運営を行っている銘柄が多い。仮に新型コロナウイルスの影響が金融機関に波及し、調達金利が上昇するような局面になっても、収益力は維持できると考えられる。
借入金比率が低い銘柄が多い点も物流系銘柄の特徴だ。増資を行わなくても借入金による物件取得が可能であり、分配金の増加を実現できる銘柄が多い。このような経済状況の中で増配の可能性があるという点だけをみても、投資家の人気が高くなる理由と言えるだろう。
物流施設は中長期的にもテナントニーズが高まる用途
前述の通り、物流系銘柄は全ての銘柄において市場平均の利回り以下まで価格が上昇している。この点では、新型コロナウイルスの影響で大幅に下落したJ-REIT全体からみれば、投資妙味が薄くなっていると言えるだろう。
ただし3年以上の中長期的な視点では、投資妙味がある銘柄も残っていると考えられる。その理由として、物流施設のテナントニーズは今後も継続的に高くなる可能性が強いことが挙げられる。
テナントニーズが高くなる理由は2つある。1つ目は、実店舗からEコーマースへの動きが加速すると考えられる点が挙げられる。今回の事態を受けて、店舗を賃借するリスクを考慮するテナントが増加する可能性が高いためだ。
2つ目の理由として、物流施設はテクノロジー進化の恩恵を受けやすいことが挙げられる。既に一部の施設では導入が進んでいるロボット利用の省力化だけなく、AIなどを利用した荷物設置場所の最適化なども進展するだろう。
このように物流施設が伸びる余地までを考慮すれば、利回りが4%程度ある物流銘柄は投資妙味がある状態と考えられる。具体的には日本ロジスティクスファンド投資法人(証券コード8967、以下JLF)や伊藤忠アドバンス・ロジスティクス投資法人(証券コード3493、以下IAL)などが挙げられる。
それぞれ4月22日時点の利回りは、JLFが6.0%、IALが4.2%となっている。なおJLFは当期(20年7月期)の予想分配金に物件売却益が大きく寄与しているため、売却益の影響がない次期(21年1月期)の予想分配金4,800円をベースとして利回りを見ておく必要がある点には留意したい。
参考までに次期予想分配金利回りをベースに4月22日の終値で利回りを算出すると4.0%程度(4,800円×2÷241,000円)となっている。