決算シーズンが到来している。新型コロナウイルスが発端となり、未曾有の景気落ち込みが予想される中、企業業績もダメージが見込まれる。ただし、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大で、在宅勤務、巣ごもり状態が長期化する見通しの中でも、このトレンドを逆手に、メリットを享受する会社は、業績の落ち込みを緩和できる。以下の銘柄群は、その代表格と言えよう。

在宅勤務、巣ごもり関連銘柄

1.アマゾン・ドット・コム(AMZN)

2019年のアマゾン株の年間上昇率は23%と2014年以来初めてS&P500種指数を下回った。不振の背景は、翌日配送プログラムの大幅拡大が利益を圧迫していたこと、クラウド部門のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の増収率鈍化だった。

ところが、2019年10-12月期(第4四半期)決算結果を受け、株価は史上最高値を更新し始めた。上記2点を克服する内容だったからだ。

売上高は21%増、純利益は8%増となり、ともに予想を上回った。特に好調だったのが、サードパーティーセラー(出店業者)サービス、サブスクリプション(定額制)サービス、クラウド部門のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)だった。いずれも前年同期比30%以上の増収を記録した。

また、小売大手との競争が激化する中、米国を中心に有料の「プライム」会員向けの翌日配送サービスを拡大し、顧客の支持を得た。その結果、プライム会員は1億5000万人以上に達し、2018年の前回公表時から50%増えた。新規会員の獲得や販売増による売上高の伸びで、物流網の拡大コストや人件費増加を吸収したのだ。

第4四半期は全体の営業利益の7割を占めるクラウドサービス「AWS」が37%増収と、同第3四半期の35%増を上回った。AWSの伸びは6四半期連続でかなり鈍化していたが、これが止まった。マイクロソフトのAzureクラウドが急追してきているが、AWSは依然としてクラウドコンピューティング市場のリーダーだ。

ここ数年で、アマゾンの利益率は急速に高まっている。企業間商取引サービスの発展や規模の拡大、効率性の上昇を背景に、利益率は更に向上しよう。同社の保有する不動産の資産価値も考慮すると、株価評価は更に高まる。利便性の高い世界最大のネットショッピング企業として、ますます成長しよう。

新型コロナが、とりわけオンライン必需品、生鮮食品販売で、アマゾンの優位性を際立たせる可能性が高い。全米規模の巣ごもり需要に十分に、迅速に対応できる配送サービス能力を有する企業は同社をおいて考えられないからだ。

アマゾン通期業績推移
出所:銘柄スカウター米国株

2.ネットフリックス(NFLX)

新型コロナウイルスの感染拡大で、在宅で楽しめるストリーミング動画の比重が世界的に高まり、“やっぱりネトフリ”のイメージが高まってきた。

もともと、ライバルを尻目に、ネットフリックスは快進撃を続けてきた。世界的にテレビ番組の制作費が広告収入減少のあおりを受けて削減される傾向にある中、潤沢な番組制作予算によってテレビ番組を上回る質の高い動画配信番組が制作され、「テレビ離れ」が進んでいる。

このような状況下、ケーブルTVのコムキャスト(CMCSA)はコードカッティング(ケーブルテレビ(CATV)を解約して、インターネットの動画配信サービス(OTT-TV)を選択する消費者動向)の対象になっているし、ディズニーはディズニー+関連の投資がかさみ、回収に時間がかかることに加え、新型コロナウイルスの感染拡大で、テーマパークがダメージを受けている。

NBCユニバーサルやAT&T傘下のワーナーメディアなど動画配信サービスへの参入が相次いでいるが、彼らもディズニー同様、投資がかさみ、回収は容易でない状況だ。また、AT&Tや、ベライゾンは、連邦裁から、スプリント合併認可が出て、強力になったTモバイルUSに対し劣勢に立つとの観測から、株価は冴えない。

ネットフリックスの19年10‐12月期決算は市場予想を上回る増収増益で、世界の有料契約者数は会社予想と市場予想をともに上回った。米国外の有料契約者数は1億人を突破し、海外の一段の成長余地を評価する声も目立った。

契約者あたりの年間の視聴時間が米国内外ともに伸びている。競合大手のウォルト・ディズニーが動画配信サービスを11月に開始した後も影響は限られている。

ネットフリックスの強さは、何と言ってもオリジナル作品の質の高さである。テレビのシリーズ物、ドキュメンタリー、長編映画などの既存コンテンツを様々な言語で提供するほか、独占配信やオリジナル作品も配信しており、その中には、エミー賞、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞などを受賞した作品も含む。

ネットフリックス株は上昇を続けており、史上最高値を視野に入れた。コードカッティングの恩恵を受けるのはネットフリックスとの観測が高まったからだ。「ケーブル、通信、サテライトビデオ業界は、先が見えない収縮状態が続いている。一方ネットフリックスは隆盛を極め、向こう4-5年間で、株価は倍になるだろう」(スティーフル・ニコラウス)。

今回の新型コロナウイルス感染拡大懸念による大幅相場下落の影響はほとんど受けていない。在宅勤務、テレワークが長引くにつれ、ますます同社の優位性が際立つことだろう。ネットフリックス株は、2018年6月29日にザラ場で423.21ドルの最高値をつけている。戻り高値である390ドルレベルを上抜け、いよいよ史上最高値を射程距離に置いた。

ネットフリックス通期業績推移
出所:銘柄スカウター米国株

3.オクタ(OKTA)

様々なクラウドサービスへのシングルサインオンサービスをSaaSで提供している会社である。シングルサインオンとは、一度のユーザー認証処理によって独立した複数のソフトウェアシステム上のリソースが利用可能になる特性である。この特性によって、ユーザはシステムごとにユーザIDとパスワードを入力する必要がなくなる。

初期費用が少なく、使った分だけ払えば良く、いつでも解約でき、メンテナンスやアップグレードにお金を払う必要がなく、常に最新バージョンのソフトを使えると言う意味で、クラウドの利用度は高まる。

今後5Gの時代が到来し、ネットワークが更に高速化され、通信量が安価になればなるほど、あらゆるビジネスサービスがクラウド化して行く。企業向けクラウドサービスの種類が増えれば増えるほど、シングルサインオンでのログイン管理の需要は高まり、かつ継続する。最大の利益享受者はオクタである。

2024年の営業マージン目標である16%-19%達成に向け、同社は順調に進行している。クラウド、デジタル転換、セルフトラスト・セキュリティへのシフトが同社にとって飛躍への転換点となる。新型コロナウイルス感染者拡大で、在宅勤務が増える中、同社の強みであるシングルサインオンは引き続き企業間での支出優先度が高い。

オクタ通期業績推移
出所:銘柄スカウター米国株

4. スラック・テクノロジーズ(WORK)

同社同時接続ユーザーの数が、2020年3月16日の1,050万人から3月25日には1,250万人に増加した。新生の作業チーム員の数も、3月12日から3月25日までで、イタリアで120%増、日本で34%増、韓国では33%増となった。2月1日から3月25日までで有料会員の数は9,000件増えた。同期間中にスラックの平均利用度は約20%増加した。2月1日から3月18日までに有料会員が約7,000件増加したので、直近1週間で2,000件増加したことになる。

Eメール以外に、グループ・チャットが普及している。ビジネスチャットアプリを手がけるスラック・テクノロジーズが手掛けるスラックでのコミュニケーションは、基本的に「チャンネル」というトークルームで行われる。プロジェクトや部署などさまざまな単位でチャンネルが作られ、通常のチャットと同じようにやりとりが時系列で表示される。1対1で1通1通のやりとりになるメールと異なり、チャンネルのテーマごとに大勢でやりとりがしやすくなる。

更に、1,800を超える外部のアプリとも連携。ストレージサービスの「ドロップボックス」にあるファイルを直接スラックのチャンネルに送ったり、スラック上で簡単なコマンドを打てば、「NAVITIME」の乗り換え経路検索ができたりする。2019年9月には「共有チャンネル」という機能の正式提供を発表。従来のスラックは社内でのやりとりが主だったが、この機能を使えば、取引先など社外ともやりとりができる。

株価は上場来、ベアトレンドが続いていたが、昨年末に上抜け、いよいよ史上最高値奪回の動きに入っている。

スラック・テクノロジーズ通期業績推移
出所:銘柄スカウター米国株

5.チューイー(CHWY)

アメリカペット製品協会(APPA:American Pet Products Association)はペット産業の総支出額についての調査を毎年行っており、直近の報告では2019年は753.8億ドル(約8兆2000億円)になると予測している。もちろん右肩上がりで増加中だ。

内訳はペットフードが4割強と最も多く、獣医への支出、グッズや市販の医薬品・サプリメントと続いている。

アメリカ国内でも、ペット用品は多くのスーパーなどで販売されているが、専業ということではPetcoとPetSmartの2社が抜きんでている。

Petcoは1994年に上場したが2000年に非公開に、2002年に再上場するも2006年には再度非公開企業となり、現在に至る。アメリカ国内とメキシコ、プエルトリコで1,500以上の店舗を展開しているほか、獣医のアドバイスなどを含むペットケアサービスにも注力している。

PetSmartもアメリカ国内とカナダ、プエルトリコで1,650店舗以上を展開し、また200以上の店内ペットホテルを運営している。同じく獣医ケアを含むヘルスケアサービスも手がけている。NASDAQ上場企業だったが、2014年に投資ファンドのBCパートナーズに買収され非公開企業となった。

ペットフード、ネコ砂など日常的な消耗品が多く、かつ重くてかさばるペット用品はネット販売との親和性が高いといわれている。アマゾンの攻勢もあり、両社ともネット販売の強化を進めている。

そんななか、PetSmartは2017年にペット用品のネット販売で急成長し注目が高まっていたチューイー(CHWY)を買収、そのチューイーは2019年6月に新規上場を果たした。チューイーの取扱商品はペットフードや健康用品、グッズなどを中心に4万5,000アイテムにのぼる。

チューイーのウェブサイトでは、2,000社近いサプライヤーが提供する多様な製品を、ペットの種類別に選ぶことができる。分類は大きく「犬、猫、魚、鳥、小動物、爬虫(はちゅう)類、馬」の七つ。魚は「熱帯淡水魚、金魚、海水魚、深海魚」、鳥は「野鳥、オウム、インコ、ひよこ」、小動物は「ウサギ、モルモット、ハムスター、チンチラ、デグー、スナネズミ」、爬虫類は「カメ、イモリ、トカゲ」などに分かれている。「馬」カテゴリーでは「馬、牛、豚、ヤギ、鶏」など家畜向け製品が販売されている。製品の分類もきめ細かい。

ペットフードを購入する場合、ドライフード、ウエットフード、トッピングなどを、ペットの好みや栄養バランスを考えて選択できるだけでなく、動物病院で提供されるような「療法食」や、人間も食べることができる「ヒューマン・グレード」という分類もある。

年中無休24時間体制のカスタマーサポートのほか、ペットの誕生日にはお祝いメッセージが送られてくるなどのサービスも高く評価され、2019年6月末時点の会員数は前年比39%増の約1,200万人に達している。

チューイー通期業績推移
出所:銘柄スカウター米国株

6.クラウドストライク・ホールディングス(CRWD)

同社は、クラウドを通じて次世代のネットセキュリティを提供する企業である。顧客企業で起きたハッキング事例などの分析結果をクラウドを通じて他の顧客にもシェアする独自のセキュリティシステムを構築している。顧客数が増えれば増えるほど、データベースも豊かになり、多様な脅威に対抗できるようになるので、その将来性が期待されている。業務形態はサブスクリプション形式なので、SaaSでの次世代ネットセキュリティ企業として注目されている。

(業績も絶好調)

3月19日引け後に発表した2019年11月-20年1月期決算で最終赤字が縮小し、市場予想を上回る増収となった。21年1月期通期見通しも市場予想を超え、買いが膨らんだ。

11-1月期の売上高は前年同期比89%増の1億5,210万ドルと、市場予想(1億3,780万ドル)以上だった。主力の継続課金型のサブスクリプション・サービスが90%増収えた。同サービスの契約数は1月末時点で5,431件と前年同期の2倍以上になり、最終損益は2,840万ドルの赤字(前年同期は3,126万ドルの赤字)だった。研究開発や販促などのコストが膨らんだ。もっとも、特別項目を除く1株損益は0.02ドルの赤字と市場予想(0.08ドルの赤字)ほど悪くなかった。

通期の特別項目を除く1株損益は0.14-0.10ドルの赤字、売上高は7億2330万-7億3350万ドルを見込む。いずれも市場予想(0.18ドルの赤字、6億7850万ドル)を大きく上回る。

クラウドストライク通期業績推移
出所:銘柄スカウター米国株

7. シトリックス・システムズ(CTXS)

シトリックス・システムズはアプリケーションの提供、サポート、オンデマンドでのシェアを可能にするシステムの開発と販売を行う。「XenApp」や「XenServer」などの製品群を含むアプリケーション、サーバ、デスクトップの仮想化、また「GoToMeeting」や「GoToMyPC」などウェブベースのリモートアクセスを可能にする。クラウドプラットフォームも提供。

シトリックス・システムズのWorkspace as a Service(WaaS)は社員の場所に関係なく、複数のデバイスから統一されたインタフェースを通じて自社のデータ等にセキュアにアクセスできる一元管理されたプラットフォーム(デジタルワークプレイス)を提供。

シトリックス・システムズのクラウド戦略においてマイクロソフトとのパートナーシップが強固で、2017年に身売り検討が報じられた時も買い手候補にマイクロソフトの名前が挙がっていた。仮想化でVMwareと競合し、ビジネスファイル共有・アクセスではボックスと競合。自宅にいながら、会社にある自分のPCにアクセスし、会社にいるのと同じ作業を可能にする。文書作成、メール配信、動画送信など全て自在に行える。オンデマンドでビジネスを継続することができ、感染症予防、災害時など危機への対策として最適だと考えられる。

シトリックス・システムズ通期業績推移
出所:銘柄スカウター米国株

8.ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM)

同社が3月4日に発表した10-12月四半期(第4四半期)決算では、ガイダンスまで含め売上高、調整済みEPSが全て予想を上回った。今後在宅勤務が拡大する中、エリック・ユアンCEOが、「今回のウイルスの件で、多くの人が、当社が提供しているようなツールが必要だと認識するに至った。これは、当社の形勢を劇的に好転させるものだ」と発言している。

4月2日、セキュリティの問題から、FBIが調査に入っているとのニュース等から、同社エリック・ユアンCEOは「コミュニティ間、及び我が社自身のプライバシーと安全性を守る観点からは、期待以下の状態であることを認める」と発言した。また「セキュリティ強化に向けて尽力する(訓練のセッションや、無料のウェビナーをユーザーに対し提供し、向こう90日間は、総力を上げて、この問題に対処する)」と発表。

しかし、同社のライバルとも言える、SaaS企業であるリングセントラル(RNG)が独自のビデオ会議プラットフォームを発表したこともあり、ズーム株は下落した。しかるに、複数のアナリスト(J.P.モルガン・チェース、レイモンド・ジェームス)は、このプラットフォームは、ズームの成長を阻害するほどのインパクトはないとコメントしている。ズームのユーザー数は3月で2億人を超えており、その使い勝手の良さは証明されている。安全性の問題は、同社のみならず、アルファベット、マイクロソフト等多くのハイテク企業でも起きており、その都度彼らは対処してきた。ズームも、訓練のセッションや、無料のウェビナーをユーザーに対し提供し、向こう90日間は総力を上げてこの問題に対処するとしており、株価の下落は限定的になると見る。

ズーム・コミュニケーションズ通期業績推移
出所:銘柄スカウター米国株

9.クラウドフレア(NET)

クラウドフレアは米国のソフトウエア企業。より良いインターネット環境構築のためのサポートを目標とし、コンテンツデリバリーネットワークやインターネットセキュリティサービス、分散型ドメイン名サーバシステムを提供。閲覧者とプロバイダ間でリバースプロキシとして動作し、ネットワーク保護および速度向上を実現。本社所在地はサンフランシスコ。

同社は数多くのサイトやサービスがインターネット上で円滑に運営されるために欠かせないクラウド・プラットフォームを提供する有力企業だ。Cloudflareはウェブサイトやモバイルアプリを誰もが容易に作動させるために欠かせないサービスだ。同社の使命は高速かつダウンタイムなし、あるい最小限のダウンタイムで各種のサービスを動かすことだ。

クラウドフレア通期業績推移
出所:銘柄スカウター米国株

(2020年4月15日執筆)