世界的な株高が起きている。米国株は主要3指数がそろって史上最高値を更新した。景況感がひときわ悪いドイツのDAX指数でさえ史上最高値にほぼ並ぶところまで上昇している。そうしたなか我が国の日経平均も年初来高値更新が続いている。約1年前のクリスマスのボトムから、ダウ平均は約6,000ドル、日経平均も約4,000円上昇している。この流れが今後も継続するとすれば、その先には日経平均3万円が見えてくると思われる。
では、この流れは今後も継続するか。我々の答えはYes だが、その理由を説明する前に、現在足元で起きている株高の背景を整理しておきたい。
現在の株高の背景
1. 短期のグローバル景気サイクル
2008年の世界金融危機以降、世界の景気は3年程度のサイクルで拡大・減速を繰り返してきた。3年という周期は在庫調整のキチン・サイクル(約40ヶ月)に符号する。
2015年夏のチャイナ・ショックあたりから落ち込み始めたグローバル景気は2016年初頭の原油安ショックを経て、2016年夏に底を打った。世界景気の体温計である米国の長期金利が史上最低を記録した時期である。そこを起点に始まった景気回復は2017年末でピークアウトする。その景気拡張期は1年半。現在は2017年末を起点とすれば1年半の景気悪化局面を経過しており、3年周期からすれば底打ちしたか、もしくは底打ちしつつあるという認識である。
現在起きている「リスクオン」の背景には世界景気の回復期待が根底にあると考えられる。
相場というものは不思議なもので、視点がころころ変わる。短期的に足元の状況しか見ずに、現在の景気が悪いと弱気になることがある。逆もしかりでバブルに酔って売り場を逃す。
しかし、基本的に相場は、一歩先を見るものである。現在の景気がボトムなら、「もうこれ以上悪くならない」とその先の回復を織り込みにいくものなのである。それをうまく表現したのが稀代のファンドマネージャー、ジョン・テンプルトンの言葉だろう。
「本当の強気相場は悲観の中に生まれる。懐疑の中で育ち、楽観とともに成熟し、陶酔の中に消えていく」
1年前の真っ暗な年末、あの総悲観の中に、現在の最高値更新が続く強気相場が生まれていたのだと思う。今はおそらく懐疑のなかで育ちつつある段階か。それが正しいかどうは常に後から振り返ってわかるものであるのだが。
2. 長期の米国景気サイクル
一方、長期的な視点からは米国の景気拡大(GDP成長)は最長の11年目に入っている。失業率は半世紀ぶりの低さでGDPの7割を占める個人消費を支えている。米国株の強さは、シンプルに米国国内景気が堅調だから、ということもできるだろう。これがベースにあるため、後述する要因(金融緩和、米中対立の緩和)が加わると浮揚力が簡単につくのだろう。
3. 世界的な金融緩和
2019年年初からFEDが利上げを停止し、その後は3回の利下げを行った。従前から緩和を継続していたECBは9月の決定通り、11月から月200億ユーロのペースで資産買い入れを再開し、「必要な限り」継続する。この緩和姿勢はラガルド体制になっても当面引き継がれる。日銀も必要とあれば追加緩和の構えを見せている。新興国でも利下げが相次ぐ。世界は再び金融緩和一色となってきた。
4. 金融相場から業績相場へ
これまで景気減速にもかかわらず株価が堅調だったのは金融緩和に支えられていた面が強い。しかし、現在の相場は3回の利下げ後、FEDがいったん利下げ終了感を打ち出しても堅調である。それは景気のボトムが見え始めているから。すなわち、金融相場から業績相場へとうまくバトンタッチされている。現在の相場は「FED(の緩和)依存症」から脱却できている。その意味で今般の「連銀の仕事」はパーフェクトだったと評価されよう。
5. 米中貿易協議
ずっと相場の重石だった問題も最終局面に近づいている。完全合意とはいかなくても、いったん「着地」すれば「これ以上悪くならない」という見方で相場の上昇要因になるだろう。
6. グレートローテーション始動の兆し
キャッシュ・債券から株式へのシフトが起きている兆しがある。例えば、
・ 一時17兆ドルに達したマイナス金利債券の残高が減り始めたこと
・ 世界の機関投資家のキャッシュポジションも減り始めたこと(ただし、まだヒストリカルにみると高く、リスク資産へのシフトが期待できる)
・金やREIT市場調整
などである。
今後の展望
この流れが続いていくと考える。理由は以下の通り。
1. 景気サイクル
上述した通り、足元がボトムだとすればここから1年半の景気は回復期間に入る。日本について言えば来年にはオリンピックがある。ラグビーW杯の盛り上がりから連想すれば、相当に盛り上がるだろう。景気にもプラス要因となる。オリンピック後もグローバル景気は2021年春ごろまで拡大が続くだろう。
2. 破裂して景気後退を招くようなバブルがないこと
米国は景気拡大が11年目に入り、過去の経験則ではそろそろ景気後退が訪れる、という意見もある。しかし論拠としては弱い。
過去四半世紀の間に起きた景気後退を見ると、いずれもバブル崩壊~金融危機(的状況)となって引き起こされていることがわかる。現代の景気後退は、「バブル清算型」(水野和夫・法政大学教授)なのである。逆に言えば、現代は低成長時代(Secular Growth)でありその自然な景気循環のなかでは「過熱→急冷却」ということが起こりにくくなっているのだ。
一部の国で不動産価格やクレジットリスクの行き過ぎは観測できる。しかし、これらは、かつてのサブプライム問題の頃の過激なリスクテイクからはまだかなり遠く、比較的個別性が高いので、世界的な「急冷却」には繋がりづらい。
よく言われる国債の膨張はいわゆる“バブル”ではない。バブルの定義は様々あるだろうが、一般的には理論価格から著しく乖離した価格がつくことを指す。ここでのポイントは、主語は何か、ということだ。株価、不動産、原油等のコモディティ、仮想通貨、チューリップの球根、etc. およそなんでもバブルになり得るが、共通するのは投機の対象になり得るリスク資産であるということだ。
それに対して国債は一般に安全資産とされる。これは決定的に違う点だ。バブルはユーフォリアの中でリスク資産におかねが向かう。安全資産である国債におかねが向かうのはユーフォリアの対極である不安、悲観、懸念が強まっている時 ― すなわちバブルの正反対の事象なのである。では債券からおかねが抜け出すのはどういう状況か?景気がよくなり、世の中の不安、悲観、懸念の要素が取り除かれる時だ。それを「バブル崩壊」というのだろうか。もしそうであるなら、そんな「バブル崩壊」はむしろwelcome ではないか。
債券=負債と捉えた文脈での世界債務膨張についてはどうか。確かに懸念材料ではあるものの、債務の反対には債権がある。バランスシートの両面を見る議論が必要だろう。債務が膨張しているだけでは問題にはならず、その債務の返済が不履行になるリスクが問題である。つまるところは経済が正常に回るかという点に尽きるだろう。そしてそれは上述した通りである。
以上 見てきたように目先、はじけたら景気後退につながるようなバブルは見られない。よって景気後退のリスクは少ないと言えるだろう。
3.政治・社会面のリスク要因
①香港情勢
②米国大統領選(60:40でトランプ大統領再選とみる。よってエリザベス・ウォーレン氏のようなリベラル政権誕生は避けられる。マーケットにはポジティブ)
③BREXIT
④(特に欧州での)右傾化
⑤貿易以外の米中対立(安全保障等)
日経平均の水準感
4-9月期の決算発表が概ね一巡した現段階で2019年度の上場企業の業績は2年連続の減益が見込まれている。それでも株価が上昇しているのは、これまで述べてきた通り、来期の回復を期待しているからである。では、来期の業績はどうなるだろう。保守的に見積もっても10%増益程度にはなるだろう。ちなみに前回の景気サイクルのボトムから回復した直後の2017年度は上場企業の純利益は35%増益だった。景気回復期の業績を10%増益と仮定することはじゅうぶん保守的である。
10%増益を前提とすれば日経平均のEPSは1,850円程度が見込まれる。現在14倍のPERは過去の長期平均である15倍に戻るだろう。よってメインシナリオとしては2万7,000~2万8,000円が来年度の日経平均の高値と考える。無論、想定以上にマーケットが楽観度合いを強めた場合、PERは16倍程度まで上昇するだろう。その場合、10%増益の仮定を変えないでも日経平均は3万円にワンタッチすることもあり得るだろう。