1週間前に発表された米国の9月の雇用統計では非農業部門の雇用者数は予想を下回ったが過去分が上方修正された。失業率は3.5%に低下、半世紀ぶりの低い水準となった。好悪材料が入り交じる結果を受けて市場ではかつてのような、熱過ぎずも冷め過ぎずもなく、ちょうど良い加減の「ゴルディロックス」の状態になったとの見方が浮上した。

確かに9月単月の結果を見れば、「それほど悪くない」と言えるが、米国の労働市場は明らかにピークを過ぎて今後の方向性としては悪化に向かうものと思われる。それは先週の「米国株投資戦略」などで指摘した通り、ISM非製造業景況感指数の雇用指数が完全に下抜けたからである。

雇用者数の伸びはトレンドが低下しているが、それは当然だ。失業率3.5%というのはほとんど完全雇用の状態だから、新規の雇用がどんどん増えるということは考えられない。それ自体は普通のことで特に問題視する必要はないのだが、問題は、失業率3.5%という一見すると非常にタイトな労働市場の環境にもかかわらず、賃金の伸びが頭打ちになりそうな点だ。

9月の平均時給は前月と変わらず、前年同月比では2.9%上昇と、ここ1年以上続いていた前年比3%台の伸びを割り込んだ。実はすでに労働市場における需給は緩んできているのかもしれない。これについてはFRBが利下げをしやすくなったと前向きに捉える声が少なくないが、事はそう簡単な話ではない。「ミニ・スタグフレーションへの警戒」で指摘したようにインフレが高まる要因(関税)とその兆候が実際に見られるからだ。

ところがその後発表されたPPIは大きく低下した。これだけを見ると米国の生産者は関税を価格転嫁できていないと映る。昨日発表されたCPIはコアが前月から0.1%上昇、前年同月比の上昇率は2.4%で前月と同じ。とりあえずインフレは加速していない。問題はこれから関税が引き上げられてくる可能性が高いことだ。果たしてインフレが高まるか、要注視である。

貿易協議は包括的な合意は難しく、部分的な合意にとどまると見られている。それでもマーケットは好感するだろう。この週末の最大の材料は米中貿易協議に違いないが、実はその陰でいくつか重要な動きがある。

大がかりな空爆と地上戦に発展したトルコによるクルド人武装勢力、シリア民主軍(SDF)への軍事作戦。トランプ米大統領が命じたシリア北部に駐留していた米軍の撤退が引き金となった。これについてトルコに制裁を科すべきという非難、批判が超党派の議員からあがっている。トランプ大統領もたまらず「ルールに基づいて行動しなければ制裁を通じてトルコに金融面でとても激しい打撃を与える。注視している!」とツイートした。もとからブレやすい人物だったが、シリア政策ではブレまくっている。今回の件で改めて共和党も一枚岩でないことが示された。

トランプ大統領の弾劾手続きが始まっているが、そんな折り、トランプ大統領の個人弁護士、ルディ・ジュリアーニ氏が進めているジョー・バイデン前副大統領の調査をほう助していた旧ソ連出身の男2人が選挙資金法違反の疑いで逮捕された。これなどはまだ序の口で今後トランプ氏を巡るどんな話が飛び出すかわからない。

そしてこのタイミングでついにウォーレン上院議員が米大統領選の民主党候補者指名争いの支持率で首位に立った。これまで一貫してトップだったバイデン前副大統領を逆転した。来年の大統領選でエリザベス・ウォーレンがトランプを破る - これが最大のネガティブ・シナリオだ。そうなったら当面は米国株にとって上昇する目はなくなるだろう。