米の対中関税「第4弾」発動の可能性を相場が織り込んでいた

先週末(8月30日)のNYダウ平均は一時26,514ドルまで値を上げる場面があり、一目均衡表(日足)の基準線をクリアに上抜けただけでなく、8月5日以降につけられた26,500ドルより少し手前の高値をも上抜けました。

【図表1】NYダウ平均(日足)
出所:マネックス証券作成

これは、すなわち8月1日にトランプ米大統領が表明した対中制裁関税「第4弾」発動の可能性を、1ヶ月近くの時間をかけて相場が織り込み、それなりに消化したことの証であると言っていいでしょう。

振り返れば、8月1日以降に米中が繰り広げた制裁と報復の応酬合戦は相当に熾烈なものでした。よりエスカレートすれば双方が疲弊し自滅するだけであると、まともな人なら誰もが感じたはずです。現段階では、どちらかが“降伏”して“講和”条約を交わすなどというところまでは到底及ぶはずもないわけですが、とりあえず一時「休戦」するという手はあります。

その実、先週8月29日に中国商務省は「今話し合うべき問題は新たな関税を撤回し、エスカレートを防ぐことだと考えている」などとする意向を表明しています。これを受けてトランプ氏も「本日(29日)から異なるレベルでの協議が再開する」と発言し、とりあえず市場には「米中が貿易問題で歩み寄る」との期待が拡がることとなりました。

米中両国の意思表明など「にわかには信じがたい…」と言ってしまえばそれまでですが、少なくともアルゴリズム取引を司っている一部の人工知能(AI)は、飛び込んできた発言や情報を文字通りに受け取り、それに素直に反応したものと思われます。

トランプ氏が嘆く歴史的なドルの強さ

結果、先週は週末にかけてドルインデックスが一段と上昇し、前回のコラム「ユーロ/米ドルは一段の下値リスクに要警戒!?」で想定したとおり、ユーロ/米ドルは1.1100ドル処をクリアに下抜けるとほどなく1.1000ドルを試しに行く展開となりました。

【図表2】ユーロ/米ドル(日足)
出所:マネックス証券作成

かなり重要な節目の1つである1.1000ドルを割り込んだことで、目先は突っ込み警戒感から一旦買い戻す向きもあるものと思われますが、いずれは一段と重要な節目と考えられる1.0800ドル処を試す可能性も十分にあると見ます。

当然、これはトランプ氏にとって非常に面白くない事態です。同氏は、先週8月26日にドルに対して下落するユーロの様を“like crazy”とツイートし、FRBの無策の結果と決めつけたうえで歴史的なドルの強さを嘆きました。

為替介入に踏み切れば米国経済も無傷で済まない

ただ、トランプ氏がいかに強烈にドル高を嫌悪しようと、これからも来年の米大統領選で再選を果たすことを目指し、国民ウケの良い政策をできるだけ数多く実現しようとすれば、それだけドルは買われやすくなるというのも否定できない事実と言えるでしょう。

なかには、為替(ドル売り)介入の可能性を指摘する向きもあり、それは1つのリスクとして無視することもできません。しかし、仮に米政権が単独で介入に踏み切ることとなれば、そのインパクトはあまりにも大きく、相応に世界経済には甚大なダメージが及ぶこととなります。

むろん、米国経済も無傷で済むということはなく、米景気後退となれば“トランプ再選”は露と消えます。よって、さしものトランプ氏でさえも、さすがに無暗な介入に踏み切るなどということはできないだろうと個人的には考えます。

なお、先週の米ドル/円の週足ロウソクは長めの陽線となり、先々週の陰線との関係はトレンド転換のサインとされる「包み線」となりました。

【図表3】米ドル/円(週足)
出所:マネックス証券作成

実際、ここから一定のリバウンドが生じるとするならば、まずは日足ロウソクが21日移動平均線をクリアに上抜けるかどうか、加えて日足の「遅行線」が日々線を上抜けるかどうか、そして次に107円処の壁を突き破ることができるかどうかなどの点が注目されます。