具体的には、これまで「今年度末(2020年3月)までに」としていたものを、「2021年12月末までに」と変更する。
到達時期の見通しを変更した主な理由は、米中貿易摩擦や世界景気の減速懸念など複合的要因により市場センチメントの悪化が長引いていることである。加えて消費増税の実施もほぼ確定的となり、増税が実施される秋以降の不透明要因も考慮して、日経平均3万円への達成時期について従来より慎重なスタンスに変えたものである。
ただし、日本企業の構造改革の流れや日本の資本市場の枠組みの変化などの観点から、日経平均が3万円に向かって上昇するとの確信は不変である。相場に変動はつきものであるから、ある程度の振幅を伴いながらも、日本株の軌道としては右肩上がりで推移するとの見方は変えていない。
2019年もほぼ半ばを過ぎ、年の後半戦を視野に入れるこの段階で、我々は、日経平均3万円への到達時期に関して、従来の見通しを後ろ倒しにすることを決定した。具体的には、これまで「今年度末(2020年3月)までに」としていたものを、「2021年12月末までに」と変更する。
到達時期の見通しを変更したのは、第一に時間軸の観点からである。ここまで相場の低迷が長引いた以上、残り9ヶ月で8,500円超、率にして約40%の上昇は、不可能ではないが相当に低い確率であろう。
相場低迷の背景は米中貿易摩擦と、それがもたらす世界景気の減速懸念など複合的要因により市場センチメントの悪化が長引いていることである。さらに言えば、米中の対立は通商問題にとどまらず、華為技術(ファーウェイ)の事実上の排除に見られる安全保障上の問題にまで拡大しており、一朝一夕の問題収束が見出し難くなっている。米中という世界1位2位の経済大国により新たな冷戦がエスカレートかつ長期化するという不安も投資家心理に影を落としていよう。
こうしたこともあって米連邦準備理事会(FRB)は19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で従来の景気判断を変更、慎重スタンスに転換した。声明文には「先行きの不確実性が増しており、成長持続へ適切な行動をとる」と明記。参加者17人のうち半数近い8人が2019年中2度( 25bps×2回)の利下げを示唆し、景気減速リスクが強まれば年内に金融緩和に転じる可能性を提示した。FRBの利下げの蓋然性が高まったことを受けて、米国の10年債利回りは2%の大台を割り込んだ。2%を割り込むのは2016年11月以来、すなわちトランプ大統領誕生の時点に逆戻りした格好だ。
欧州でも主要国の長期金利が軒並み低下している。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が経済・物価情勢の改善が鈍ければ「追加の刺激策が必要になる」と発言。利下げなど具体的な追加緩和の手段に言及したことが背景だ。欧米での金利低下に拍車がかかるなか、我が国では日銀の金融政策に手詰まり感がある。そうなれば円高懸念も徐々に台頭し、日本株にとっては足かせとなるリスクがある。
国内要因としては、消費増税の実施がほぼ確定的となった。増税が実施される秋以降の状況に関して不透明度合が増している。その先にはオリンピックとその反動も懸念されている。
景気サイクルの面では、短期の循環(在庫調整等)の観点からはIMFが示している通り、年後半からの回復シナリオも依然として蓋然性はあるものの、半導体市況の回復は2020年に後ずれするという見方も一部の半導体企業から示されている。加えて、クレジット・サイクルの面ではこれからますますリスク度が高まる局面に向かう可能性も排除できず、視界不良である。
こうした状況に鑑みて、日経平均3万円への達成時期について慎重に見た結果が、2021年中への先送りである。
ただし、日経平均が3万円に向かって上昇するとの確信は不変である。日本企業は選択と集中を進め、筋肉質な財務体質に変貌している。令和初年度となる2020年3月期はグローバルな景気減速など企業業績への逆風が強まるが、それでも上場企業の5社に1社は粘り強く最高益を更新する見通しだ。
ROEや資本コスト、株主還元の意識も向上している。コーポレートガバナンス改革、スチュワードシップ・コード導入による投資家と企業の対話の促進、エンゲージメントによる資本効率改善、アクティビズムが一定の認知を得られる市場環境の醸成など日本企業の構造改革の流れや日本の資本市場の枠組みの変化が、我々の確信の根底にある。
こうしたことから日本株の割安さに着目する投資家はカタリストさえあれば増加していくに違いない。
平成の30年間を通じて、80年代後半に膨らませたバブルの清算は完了している。日本株は、株式という資産が本来投資家に提供する収益率をまっとうに期待できる資産になったのだ。相場に変動はつきものであるから、ある程度の振幅を伴いながらも、日本株の軌道としては右肩上がりで推移するだろう。
一方、日本株のバリュエーションは極めて低く、その意味では下値は限定的である。日本株は下値が限られ、中期的にアップサイドは3万円が見通せる資産であり、リスク・リターンの観点から有望な投資対象と言えるだろう。
アップサイド・シナリオとして、年後半から景気回復が徐々に始まり、来年はそれが鮮明になるというケースが考えられる。2020年は、日本ではオリンピック、米国では大統領選挙、中国は2010年に打ち出した所得倍増計画の到達目標年である。さらに言えば、2021年は共産党結成100周年、2022年は世界初となる夏冬五輪の北京開催を控える。中国は、2020年から3年程度をにらんだ景気対策を本格化させるだろう。
米国も、再選を目指すトランプ大統領が、大統領選の年に景気が悪化するのを是が非でも阻止するだろう。彼の公約のうち未達のインフラ投資を大統領選の年に合わせてぶつけてくる可能性が高い。加えてFRBが利下げを実施すれば、景気後退に陥るリスクは後退し、息の長い景気拡大が持続しよう。
こういう状況になれば、世界景気敏感株である日本企業の業績は伸び、市場心理の改善でバリュエーションも拡大するだろう。
2021年12月とすれば今から2年半ある。このアップサイド・シナリオでは、堅めに見ても2年半で企業業績は15%程度増えるだろう。現在12倍のPERも過去平均の15倍まで戻ってもおかしくはない。業績が15%伸び、バリュエーションが25%拡大すれば株価は4割超上がる(1.15×1.25=1.4375)。
このアップサイド・シナリオが示現すれば、日経平均は2021年12月末よりも前に3万円に到達するだろう。