みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は依然としてじり安の展開が散見されます。

米中貿易摩擦の余波が早くも日本企業に影響を与え始めた他、中東における地政学リスクの再台頭、国内においては消費増税に対する懸念などが株価の重石となっている状況です。

消費増税に関しては既に市場は織り込み済みとの分析もあるようですが、再延期を期待する声も根強く、実際に増税決定となればショック安が起きる可能性は否めないと考えます。当面の株価は、少なくない悪材料に対して神経質な展開が続くことになるのではと筆者は見ています。

地域包括ケアシステムによる産業への影響がようやく見えてきた

さて今回は「地域包括ケアシステム」をテーマとして取り上げましょう。地域包括ケアシステムとは、今後、人口高齢化が進む中、地域単位で医療・介護や生活支援などを一体的に確保できる体制の構築のことを指します。

2012年に厚生労働省よりこのコンセプトが打ち出されていますから、既に7年ほど経過したプロジェクトということになります。とはいえ、この言葉を初めて聞いたという方もおそらくおられるように、決して一般に浸透した概念ではまだありません。

地域包括ケアシステムによって、実生活において何か大きな変化が生じてきたとは率直には言い難く、それゆえに株式市場においてもこれまでテーマとして注目された例はあまりありませんでした。

今回、このテーマを取り上げたのは、この地域包括ケアシステムが産業に与える影響などがようやく見えてきたのでは、と考えたためです。株式市場にテーマとして注目されるのはまだ先かもしれませんが、テーマの先取りという視点で捉えてみたいと思います。

着実に現在の医療状況へ変革をもたらしている

ここで重要なのは、地域包括ケアシステムの本質は、医療費抑制にあるという点です。我が国で少子高齢化が深刻な問題となりつつあることは論を待ちませんが、それに伴って医療費も急速に増加しており、それを支える健康保険システムに至っては今後の持続性に疑問が呈される状況となっています。

高齢化が進行する中、これまでのように病院があらゆる患者を抱え込む状況が続けば、医師や看護師、病床の不足も加わって莫大な費用負担となりかねません。そこで、慢性期、つまり病気は緩やかに進行しているが、病状は安定しており長期的な看護・治療が求められるような患者に対しては、病院ではなく施設や在宅でのケアにシフトできる体制にしようとするモデルなのです。

入院医療費は医療費総額の40%弱を占めているため、この部分の抑制が、膨張する医療費の歯止めとして直接的な効果をもたらす可能性は非常に大きいと考えられるのです。

実際、かつて診療所・病院で亡くなる方は全体の80%を越えていましたが、2012年以降は徐々にその比率は低下を始め、2017年には75%を割り込みました。代わりに老人ホームや介護保険施設などの施設で亡くなる方は1990年にはほぼゼロだったものが、2017年には全体の10%近くに達しています。

病院では緊急性の高い急性期患者への対応シフトが進む一方、慢性期患者向けの病床の減少が進んでいます。地域包括ケアシステムは、劇的な進展は確かにないものの、着実に現在の医療状況に変革をもたらしていると言えるでしょう。

内閣府によると、我が国は少なくとも2040年までは高齢者が増加し続け、全人口に占める高齢者の割合は2040年を超えても上昇し続けると予測されています。医療状況への変化といった流れは今後さらに進展する可能性が十分あると考えるべきでしょう。

株式市場で多くの関連企業が注目される局面が来る

これに伴って、さまざまなビジネスチャンスが生まれてきたことも確かです。訪問看護や訪問介護というビジネスが増加してきたのを代表格に、通所介護などを推進するケアサービス、ホスピス施設やサービス付き高齢者向け住宅の運営など、多くの事業形態が輩出されてきました。

株式市場においても、こういった地域包括ケアシステムをベースとした企業の公開が増加していくように感じています。

この分野はまだ黎明期とも言え、高齢者にとっての使い勝手が実際どうなのか、介護士や看護師といった人材の確保は十分なのか、あるいは地方の医療行政への対応など、成長に向けての対処すべき懸念材料は依然として多々残っているように思えます。しかし、同時に新たなビジネスモデルで新規参入してくる活きのいい企業が多く誕生していることも確かです。

筆者は遠からず、地域包括ケアシステム関連という括りが確立され、そこで少なくない企業が注目されてくる局面が到来するのではないかと予想しています。