反軍政タクシン派が第1党になるも、軍政の暫定首相が続投へ

3月24日に実施されたタイ総選挙(下院選挙)の公式結果が先週ようやく発表された。タイ選挙管理委員会の発表によると、下院定数500に対し、反軍事政権勢力であるタクシン元首相派のタイ貢献党が136議席で第1党となり、親軍政の国民国家の力党が115議席で第2党になった。

その他は、新未来党が80議席を獲得して躍進し、事前には第三勢力と予想された民主党は52議席と伸び悩んだ。しかし、反軍政を明言している政党の合計議席は下院の過半数に達しないとみられ、軍政のプラユット暫定首相が「続投」する可能性がより濃厚になった。

当コラム「タイで総選挙実施――根深い対立が続くタイの政治構造」でも解説したように、今回の総選挙は小選挙区と比例代表を組み合わせて、特定政党が大勝することが困難で、単独では過半数を獲得できないように設計されている。過去の総選挙で勝ち続けてきたタクシン派の復権を阻む狙いがあったものである。

加えて、比例代表の議席配分方法も、最低得票数を低くするなどして議席が小党にも配分され、より多党に分散されることとなった。タクシン元首相派政党「タイ貢献党」など7党で構成する反軍政勢力「民主戦線」は、選挙制度と選挙管理委員会による「意図的な操作」が軍政寄りだと批判を強め、選管が採用した比例代表の議席配分の計算方法に反発しており、法的手段に訴える準備をしているという。

親軍政政党である「国民国家の力党」は、下院単独では第2位の政党だが、多数派工作により「民主党」や「タイの誇り党」その他11の中小政党が連立して、親軍勢力が政権を樹立する見込みである。

辛うじて過半数を超える見込みの連立軍政、安定するか不透明

そもそも、首相の任命は、上下両院の議員の投票により決まるように変更されているうえ、上院(定数250)は軍が任命する仕組みであるため、過半数である376議席の確保は、十分に手が届く。逆に言えば、民主戦線には政権樹立の可能性が事実上ない。

なお、連立政権の下院の議席数は過半数を辛うじて上回る数となる見込みで、政権が安定するかどうかは不透明である。また、民政移管を看板に実施された総選挙だが、結局は、軍政勢力が政権を維持し、民意で選ばれた正当性を付与するための選挙という評価になるのはやや残念だ。

一方で、今月初めには、新国王の戴冠式も行われ、懸案だった王位の継承も完了した。先週バンコクに出張して、街では明るく前向きな活気と雰囲気を感じたのも事実である。

タイ経済は、アセアンでは先行して工業化し発展してきたが、最近の成長率では、周囲の国に見劣りし、勢いに欠けるところがある。タイの発展のために政治・社会が安定して、アセアンをけん引する大国として一段と発展することを祈りたい。