EU離脱合意案に保守派が強くアレルギーを示す

メイ英首相は、先月、予定していた英国議会でのEU離脱合意案の採決を先送りした。英議会は昨年12月20日から今年1月7日まで年末年始の休会に入った。英国のEU離脱は、2019年3月29日の期限を前に合意案の成否が見通せず、非常に厳しい状況と言える。

メイ英首相は党内調整を続けてきたが、可決される見通しが全く立たない状況が続いている。メイ政権が倒れる恐れすらあったが、先月はそのリスクを回避した形である。

与党保守党内では、メイ首相がEUと合意したEU離脱合意案には、批判が根強い。キング上院議員(元イングランド銀行総裁)など保守派は、「世界最悪の案」だとしてメイ首相のEU離脱合意案に反対票を投じるよう議員らに呼び掛けているほどである。

「手切れ金」としてEUに支払う390億ポンド(約5兆4148億円)に加えて、EUが無期限に英国との協議に拒否権を持つ合意案は英国にとって屈辱的でしかない、とまで言い切り、保守派は合意案に強いアレルギーを示している。

状況を打開しようと、メイ首相はEU首脳に対し、英議会の支持獲得のためにEU離脱合意案の最大の懸案事項であったアイルランド国境を巡るバックストップ条項(安全策)について、追加的「保証」を求めた。しかし、英議会説得のために再度EU側から譲歩を引き出そうとする英国の要求に、EUは逆に態度を硬化させ、合意なき離脱への準備を加速する方針と伝えられている。

合意なきEU離脱で「第2次世界大戦以降で最悪の不況」のシナリオ

メイ首相は、英議会から離脱案への承認を得ることができるだろうか。残された時間がないことも確かで、時間切れとなれば英国はEUから「合意なき離脱」を迫られることもありうる。そうなれば、政治的・経済的な混乱を招くことは必至であろう。

ちなみに、イングランド銀行が11月28日に公表した報告書では、合意なき離脱に至った場合、英国経済は少なくとも第2次世界大戦以降で最悪の不況に陥る恐れがあると言及している。最悪のシナリオをたどれば、英国の国内総生産(GDP)は1年以内に8%縮小し、不動産価格は3割落ち込む可能性がある、とのことである。これは、英国にとってはリーマンショックよりも大きな影響(当時はマイナス6%)を受ける可能性があるということだ。

英国のEU離脱以外にも、欧州には不安定要因が多い。予算案を巡ってEUと対立するイタリアのみならず、ここへ来て就任時には高い支持率を得ていたマクロン仏大統領も、燃料税導入をきっかけに、政権への失望が広がっている。メルケル独首相も、党首を交替するなど、独仏連携強化によるEUの財政統一などは遠のいた感がある。EU域内の成長率も減速傾向が見てとれる。2019年は、欧州情勢にも相当に注意を払っておくべきと筆者は考えている。