9月下旬に風向きが変わったかと思われた中国株ですが、米国の長期金利の急上昇をキッカケとした世界的な株価急落の影響を受けて一段安となり年初来安値を割り込みました。もっとも、米国の金利上昇は今に始まった話ではなく、米中貿易摩擦への懸念も長らく材料になっていることであって、急に発生した事案というわけではありません。おそらくこの世界的な株価急落の背景は、急激に上昇した日本株のように、9月下旬~10月の上旬に米国主導の良好な経済成長と世界株高になるとみた投資家心理が強気に傾き過ぎたことに対する揺り戻しと思います。実際のところ、シカゴIMMの円のショートポジションは傾き過ぎの1つの目安となる10万枚まで拡大していました。つまり、リスクオフ&日米金利差が開いて円安になるとみていた投機筋が急激に増えていたというわけです。ファンダメンタルに大きな変化はみられませんから、つまりこの調整は今年2月と同じく、強気に傾き過ぎたことへの調整と取れます。

米中貿易摩擦問題はまだ最終的にどうなるかが見えていないところですが、中国政府は輸出で悪影響が出ても景気が底割れしないように金融緩和と財政投資拡大に舵を切っています。したがって、思ったほどには中国経済は悪化しないのではないかと見ています。このような観点から見ると中国の優良銘柄は割安に見えます。たとえば、テンセント(00700)の今期と来期の予想PERは29.9倍と23.3倍と過去の水準から考えると、かなりの低水準ですし、平安保険(02318)にしても今期と来期の予想PERは11.5倍と9.6倍という水準です。また、中国最大の銀行である中国工商銀行(01398)の予想配当利回りは今期5.6%、来期で6.07%の水準となっていますし、比較的業績の安定しているアパレルメーカー、ジョルダーノ(00709)の予想配当利回りは今期9.68%、来期10.59%。同じく中国の紳士服大手の中国利郎(01234)の予想配当利回りも今期7.8%、来期9.1%となっています。

このように、株価が大きく下げている中で、企業業績が悪化する見通しでもない企業の株価が非常に割安な状況になっているのが現在の中国株です。もちろん、世界的な株式市場のことを考えますと、ここまで急激に株価が下落しましたので、しばらくは株価が戻っては、まだ逃げ遅れている人の戻り売りがある感じでV字回復というのは難しいと思います。2月の急落時も、上昇基調に回復するまで3ヶ月程度を要しました。しかし、前述のように今回の急落はファンダメンタルに特に変化がない中での投資家の行き過ぎた傾き過ぎの調整が理由でしょうから、傾きが修正され、戻り売りがこなせれば、株価は再び緩やかな回復トレンドに戻れるのではないかと見ています。さらに言えば、業績や景気が強いとより多くの投資家が認識している中で、2月と同じような急落が起きた訳で、相場は前回同様に戻ると考える投資家は前回より多く、回復もその分早いと思いますがどうでしょうか。

※予想PERや予想配当利回りは筆者が調査した市場コンセンサスに基づきます(10月12日終値で計算)

コラム執筆:戸松信博
(グローバルリンクアドバイザーズ 代表取締役社長)