・欧州では、9/24のドイツ議会選挙と10/1のスペイン・カタルーニャ地方の独立を問う住民投票という2つの選挙イベントが予定されている
・ドイツでは、メルケル氏が安定政権確立に向かう一方、カタルーニャ問題は大荒れ。民族主義拡大を招けば、来年5月までに行われる伊選挙の波乱要因に
・12月のEU強化案提示と金融政策正常化で、ユーロは強含み継続の見込み。但し、民族主義の動向次第では伊選挙に向けユーロ高に限界が見え始めよう
欧州の選挙動向
欧州では、これから1週間余りで2つの重要な選挙が予定されている。今週末24日に行われる、4年ぶりのドイツの議会選と、10月1日のカタルーニャ地方の議会選挙である。3月のオランダ議会選挙、5月のフランス大統領選に次ぐ、欧州選挙ラッシュの今年の最後のヤマ場となる。
ドイツの議会選挙では、メルケル現首相のキリスト教民主同盟(CDU)が最大議席を取り、メルケル氏の4選が確実視されている(図表1)。連立相手も、1期目3期目で組んだ第二党社会民主党(SPD)でも、2期目と同じ自由民主党 (FDP)プラス緑の党という組み合わせでも、大きな波乱はないだろう。
若干市場に動揺をもたらすとすれば、極右の「ドイツのための選択」(AfD)の存在である。前回2013年の選挙では、少数政党乱立を防ぐための「阻止条項」に阻まれ、議席を得られなかった。しかし、今回は、条項の制限を超える5%以上の得票で、初めて国政の場で議席を得る可能性がある。
ドイツ総選挙後の行方:EU制度強化へ
戦後ドイツは政治の安定を重視するため、原則として4年に一度しか国政選挙がなく、議会の解散はごく例外的な状況以外では行われない。従って、メルケル氏が4選を果たせば、在任16年と、戦後最長のコール首相に並ぶ可能性が高い。このような政治的安定を手に入れれば、メルケル首相は、フランス・マクロン大統領とともに、EUの制度強化を進めやすくなる。
EU制度強化の一案として提示されているのは「マルチ・スピード統合」である。欧州委員会は、今年3月にEUの将来について5つのシナリオを提示した(図表2)。このうち、ユンケルEU委員長や主要国首脳が推奨しているのが、統合をスピードアップするため、それができる国から進めるという「マルチ・スピード統合」という選択肢である。
どの選択肢を選ぶのかについては、今年12月のEU首脳会議で一定の結論を出す予定である。詳細はまだ不明であり、恐らくさまざまな調整が必要となりそうだが、いずれにしても、大国2国の首脳の政治基盤が確立したことで、EU制度強化が進む可能性が高まる。
また、近々ECBの国債購入の縮小が決定されるのに備え、欧州安定メカニズム(ESM)を強化して、欧州版IMFである「EMF」を設立することが検討されている。同じく12月に欧州委員会としての提案が示される予定である。
EMFが設立されれば、各国の財政の監視が強化されるとともに、現在IMFが行っている脆弱国の支援がEU内部で完結できるようになる。前述の「マルチ・スピード」統合が成立した場合、取り残される国が問題になる。しかしEMFが設立されれば、脆弱国のリスクに対するセーフティネットも強化されるだろう。
カタルーニャ独立の住民投票
ドイツの総選挙後に注目されるのは、スペイン北東部のカタルーニャ地方の独立を問う住民投票である。カタルーニヤ地方は現在、「自治権」を有しているが、その強化を目指した「カタルーニャ自治憲章」は2010年にスペイン憲法裁判所から違憲と判断された。更に、「自治州」でありながら、スペインの共通税制に組み込まれており、財政が健全な割に恩恵を得ていないという不満が強い。
現時点の独立派支持率は不明である。2016年1月に自治州首相に就任したプッチダモン氏は、「18か月以内にカタルーニャ共和国を樹立する」と宣言し、今年6月に、10/1に住民投票を行うと表明した。
しかし、そもそも、スペイン中央政府はこの住民投票を「違憲」としており、投票用紙を押収した。更に、9月20日には、州政府の施設を捜索、同州高官10名余りを逮捕したと報じられている。投票日まで、地元と中央政府との対立が高まりそうだ。
カタルーニャ独立までには、投票実現→独立派が過半数獲得→スペイン中央政府が独立を認可する、という高いハードルをクリアする必要がある。従って、実現の可能性はまだ低いが、報道が続けば、欧州他国のナショナリズム(民族主義)の再燃に繋がる可能性もある。
現在、欧州では、スペイン北西部のバスク地方や、ベルギーのフランドル地方で独立運動が行われている。更に、来年5月までに行われるイタリアの総選挙でも、反EU派の動向が懸念される。反EU最大勢力である「5つ星運動」は現実路線に転換しつつあるものの、再び反EU強行路線に回帰する可能性も排除できない。
ユーロへの影響
当面の選挙イベントでは、ドイツ・メルケル氏の勝利は、織り込み済みとはいえ、強いユーロのサポート要因となるだろう。EUの強化に向けて新たな制度設立への期待感も高まりそうだ。来月のECB理事会では、債券購入プログラムの縮小も決定される可能性が高い。
一方、カタルーニャ独立問題は微妙な波乱要因である。フランス大統領選前のユーロは、対円で現在より15%程度安かった(図表3)。カタルーニャの住民投票だけでは、大きな市場の動揺にはならないだろうが、その勢いが他の各地のローカル・ナショナリズムを刺激した場合、絶好調のユーロに影を落とす可能性が出るだろう。