第149回「米国で低コスト競争が先鋭化」 ETF解体新書

こんにちは。晋陽FPオフィス代表のカン・チュンドです。本日はETF=インデックス投資と捉え、この界隈で起こりつつある異次元の低コスト競争について解説します。両トピックとも米国での出来事ですが、筆者はたいへん驚きました。一つ目は、「バンガード社が1,800近いETFの売買委託手数料を無料化へ」というニュースです。
バンガード社のニュースリリース(英語)。
https://pressroom.vanguard.com/news/Press-Release-Vanguard-Lowers-Cost-Investing-Broadens-Commission-Free-ETFs-070218.html

上記リリースによりますと、バンガードは8月中にも1,800近いETFの売買委託手数料の無料化を実施する見込みです(オンライン上の取引のみ。レバレッジ型、インバース型のETFは除く)。バンガードはETFのプロバイダー(運用会社)であると同時に、証券口座を持つオンラインブローカーでもあります。実は同社は2010年から、自社のETFに限り、売買委託手数料の無料化を進めていました。この種の流れは他社でも存在しており、たとえば、チャールズ・シュワブ証券では、100本以上のETF取引手数料をゼロにするサービスを行ってきました。また、フィデリティ証券がi シェアーズETFの売買手数料をゼロにするというサービスもすでに試されていました。しかし、今回のニュースは上記とは意味合いが異なります。
ETFの三大運用会社、ブラックロック、バンガード、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのみならず、米国上場のETFの大半を、売買手数料ゼロにしてしまうわけです(もちろん、バンガード社はライバル社のETFの売買手数料をゼロにしても一銭の利益にもなりません)。では、バンガードの真の狙いはどこにあるのか?ETFを巡る競争が苛烈化する中、潜在顧客を囲い込み、市場シェアを高めたいという思惑が見えてきます。市場シェアには二つの意味があります。まず、ETF売買のプラットフォームとしてのシェアを高めること。そして中長期的には、バンガードの証券口座内で啓蒙活動を行うことで、他社のETFから自社のETFへ乗り換えてもらおうという目論見も見えてきます。

二つ目のニュースは、先週、米国のフィデリティ・インベストメンツが年間経費率「ゼロ」のインデックスファンド(2本)の運用を始めたことです。
CNBCの記事はこちら(英語)。
https://www.cnbc.com/2018/08/01/fidelity-one-ups-vanguard-first-company-to-offer-no-fee-index-fund.html

フィデリティは、アクティブ運用のイメージが強いですが、実は米国では、バンガードに次いで第2位の純資産残高を誇るインデックスファンドの運用会社でもあります(もちろんETFの運用も行っています)。インデックスファンドで継続コスト「ゼロ」の商品が登場したことで、ETFでも年間経費率「ゼロ」のものが現れる可能性が高まったといえるでしょう。運用会社は継続的な報酬がゼロになっても、ファンド(ETF含む)が保有する株式を投資家に貸し出すことで『金利収入』を得ることが可能です(いわゆる貸株)。今回の二つのニュースは、インデックス投資において「ゼロコスト」時代の幕開けとなるかもしれない予感をはらみます。米国では明らかに、熾烈な競争が異次元の領域に足を踏み入れたといえるでしょう。

コラム執筆:カン・チュンド

晋陽FPオフィス代表

2000年にFP事務所を開業以来、資産運用に特化したセミナー、コンサルティング業務を手がける。