中国の若者にとり、海外留学は大変魅力的なもので、高い人気があります。
全国統一大学入試「高考」の熾烈な競争を回避できること、卒業後に良い就職機会と高い報酬を得られる可能性があること、さらには就職により海外に留まることにより、永住権や国籍を得られる可能性もあるということで、毎年多くの学生が、世界各地に出ています。

就職機会や永住権等のメリットが大きいため、以前は留学からそのまま海外で就職という人が多かったのですが、近年、卒業後中国に戻り、就職あるいは起業する人が急増しているそうです。
中国政府の教育部によると、昨年2017年に出国した留学生は608,400名で、一方、留学を終え帰国した者は480,900名でした。
単純計算では、留学生の約8割が帰国したということになります。
30年前の1987年には、この割合が5%に過ぎず、また10年前の2007年でも、30%にとどまっていましたので、「留学から帰国」のルートが近年急速に拡大していることがわかります。

この背景には、中国国内での就職事情の好転と、海外の多くの国で、外国人の就労や居住に関する政策が厳格化していることが挙げられます。
先月、研究機関と就職情報サイト運営会社が共同で、帰国した留学生2,190名を対象に実施したアンケート調査によると、回答者の40%が、帰国の理由として中国での就職機会の増加を挙げ、また27%が諸外国での外国人管理の厳格化により、海外でのキャリアの形成に不安を感じたことを挙げています。

2,190名の帰国者の就職先は、20%が北京、14.6%が広東省の広州及び深圳、11.4%が上海で、大都市に集中しています。
これらの都市では、起業支援、資金援助、税制優遇や戸籍の付与など、帰国した留学生に対し充実した支援制度を設けており、人材の獲得に成功しています。
他の都市でも、住宅の家賃補助等、優秀な若年人材の確保のための政策を講じているのですが、地元企業が国内の大学の卒業生を好む傾向があるとのことで、なかなか実を結んでいないそうです。
また、中国国内で就職活動を行う留学生からは、期待した水準の報酬を得られる職が少ないとの声が上がる一方、企業側からは「留学生よりも実務経験者が望ましい」との声もあり、ミスマッチも生じているようです。
留学生の側にも、どのような人材が、どの程度の条件で求められているのかについて、現実を正しく理解することが求められます。

年間60万人の留学生というのは、日本の8倍ほどにも達します。
また、日本人の留学生は、1年以下の短期の者も多いのに対し、中国人留学生は大学4年間のフルタイムの学生が多く、内容も大きく異なっています。
もちろん、留学のためには、学生本人の能力と努力に加え、家庭の経済力が必要になります。日本では、親の収入が子供の学習機会の差に、さらには進学から就職の機会の差につながっていると指摘されていますが、中国でも同様に、生まれた家庭の経済力という子供自身にはどうすることもできない差が物を言いつつあるように思えます。
難しいこととは思いますが、「機会の平等」が出来る限り保たれるよう望みたいと思います。

海外留学生の動向からも、中国の発展ぶりが理解できる話題でした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト