中国の動物園では、来園客が動物に食べ物などを与えることで、動物が健康を害し、最悪死に至る事件がしばしば発生しています。
2015年には、上海の動物園で、来場客がレジ袋など食用に適さないものを与えたことで、3頭の鹿が命を落としました。
多くは「可愛い動物たちを喜ばせたい」との善意からの行動と思われますが、中国では国民の間に経済格差だけでなく、社会規範についての理解と行動への反映にも大きな差があり、TPOに応じ求められるルール、マナーを順守することについても、認識が十分でない人々が少なからず存在します。

喫煙マナーも一つの典型例と言えます。最近は少なくなりましたが、当事務所が入居しているオフィスビルでも、時々トイレの個室での喫煙が見られます。また、航空機内での乗客の喫煙がニュースになるなど、「民度」に疑問符が付く出来事も少なくありません。

ジャイアントパンダなど、多くの中国固有種の飼育と展示で知られる北京動物園でも、来園客による動物への餌やりが問題となっています。
飼育動物への給餌は、飼育員により、摂取カロリーや栄養を管理する形で行われているのですが、来場客が食物を与えることで、動物が消化不良や重篤な疾患を発症するケースが見られています。
夏休みの繁忙期を迎え、動物園では巡回を強化し、来園客への指導に努めているほか、ルール違反を行う者から罰金を徴収する運用を始めました。
先月半ばからの半月あまりの間にも、ルールに反し動物に食べ物を与える事例が300件ほど生じており、動物園は係員の巡回により、また来園客が利用するオーディオガイドを使用して、食べ物を与えないよう注意を促しています。
また、先月には、ルール違反を他の来園客が咎めたことをきっかけに、言い争いの喧嘩にまで発展したそうで、これに懲りた動物園側は、7月27日(金)より、違反者に対し50元(約800円)から100元(約1,600円)の罰金の徴収を始めました。

一方、「給餌をしてみたい」との来園客のニーズに応えるため、飼育員の立会のもと、餌やりの体験ができるコーナーを設けました。特に家族連れに好評だそうです。

来園客からは、「子供を楽しませるだけではなく、親がしっかりと教育をすることが重要」あるいは「動物たちを良い環境のもとで飼育するため、来園客の監視と指導が重要」といった声が上がっています。
長期的には人々の理解が進み、ルールが守られることが望まれますが、まずは強力な指導により、動物の生育環境を良好に保つことが第一となります。

日本では、中国人観光客のマナーが問題視されていましたが、最近ではリピーターも増え、以前よりはかなり改善されたとも言われています。
一方では、今後も「海外旅行初心者」が数多く日本を訪れることが見込まれますので、全体の底上げにはまだまだ長い時間がかかりそうです。
所得や生活の水準、消費や余暇の過ごし方などで、13億の国民は極めて多様であり、とても「中国人」と一括りにはできないものがあります。そのことがまた、あらゆる産業、企業にとって、中国市場が魅力的なものであることの大きな理由にもなっています。

中国社会の現状を象徴するニュースでしたが、何よりも動物たちが健康で過ごせるよう、まずは動物園側の努力に期待したいと思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト