中国政府の教育部(日本の文部科学省に相当)が、先月7月25日に、小中学生の学習と生活の状況に関する調査結果を公表しました。
政府による同種の調査はこれまで行われておらず、今回が初めてとなりました。
調査は、2015年から2017年にかけ、全国の小学4年生と中学2年生572,314名を対象に行われ、あわせて校長19,346名と教師147,610名へのアンケート調査も行う大規模なものとなりました。
調査の結果、子供たちが宿題に時間を取られ、睡眠を十分に取ることができないなど、生活に影響が生じていることが明らかになりました。
特に算数(数学)と国語(中国語)が大変で、小学4年生の33.6%が毎日30分から1時間を算数の宿題に費やし、14.7%は1時間から2時間を、また4.4%は2時間以上を充てていました。
これが中学2年生の数学になりますと、50.2%が30分から1時間、19.2%が1時間から2時間、4.6%が2時間以上と、さらに時間が長くなっています。
また小学4年生の43.8%、中学2年生の23.4%が、放課後に塾に通い、算数(数学)の宿題に取り組んでいるという結果も発表されました。
国語(中国語)はさらに大変で、小学4年生の40.4%、中学2年生の45.5%が30分から1時間を、またそれぞれ21.5%と15.1%が1時間から2時間を、8.7%と3.4%が2時間以上を費やしています。
まさに「ひたすら勉強漬け」という感じです。
調査対象の児童、生徒の30%以上が、勉強、成績に強いプレッシャーを感じており、また半数以上が算数(数学)が大変と回答しています。
部活動などできる道理もないといったところです。
ほとんどの児童、生徒が一流大学への合格や海外の有名大学への留学を目指し、小さなうちから競争にさらされる学歴社会となっています。家族ともども大変ですが、合格を勝ち取った時の喜びはまた一塩なのでしょう。
宿題に多くの時間を要することで、生活にも影響が生じています。昨年、教育部は「学校と家庭は協力し、小学生には10時間の、また中学生には9時間の睡眠時間を確保しなければならない」とするガイドラインを発表したのですが、今回の調査では、これを達成できた小学生は30%に、また中学生は16.6%にとどまりました。
宿題をやらないわけには行かない一方、睡眠不足は集中力を奪い、また健康にも影響を及ぼしかねませんので、難しいですが何とか両立を図らなければなりません。
児童、生徒の負担軽減のため、教育部は今年に入り、塾への立入調査を行い、教育内容の変更等の指導を行っています。
6月までに20万ヶ所の施設を調査し、12,000以上の施設のカリキュラムを、学校での教育スケジュールに合わせる形に変更しました。
特に保護者の間に、学校での指導内容を先取りすることへの期待が強く、塾の側もそのようなニーズに応えるため、先取りと詰込みの指導になりがちなのだそうです。
教育の専門家は、競争が有名幼稚園への入園から始まっており、幼稚園がその後の小学校、中学校から大学までの進路を左右するようになっているため、子供たちが早くからプレッシャーを感じているとし、小学校から始まる学校間の優劣、教育資源の分配の不均衡が問題であると指摘しています。
日本では、特に都市部では中学受験が一つの分かれ目になっているように思われますが、中国では幼児期から差別化が始まっており、日本以上に親の経済力や熱意が問われてしまいます。
果たして当事者である子供たちにとって、どのような形が最も望ましいのか、人口が多く当然に競争が激しくなってしまう中国では、なかなか正解が見出しにくいように思われます。
日本でも、センター試験の廃止など、近年大学入試の改革が急ピッチで進んでいますが、背景には18歳人口の減少というこれまでにない変化があります。
中国も遠からず人口減少に向かうと見られていますが、一方ではもうしばらく大学進学率の上昇が見込まれ、厳しい競争は続きそうです。
子供たちが身体と心の健康を損なうことなく、それぞれ希望する道に進むことを願いたく思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト