中国は、毎年6月に行われる全国統一大学入試「高考」に象徴される日本以上の学歴社会です。
日本では、各地で夏の高校野球の地区予選大会が繰り広げられていますが、中国の中学校や高校では、日本のような部活動は行われておらず、スポーツや芸術の分野を志す生徒を除き、多くはひたすら勉強に打ち込む生活を送っています。

中国の学校制度は秋入学で、現在は夏休みです。
この時期、各地の有名大学には、キャンパスを見学しようと全国から多くの中高生が訪れます。
北京では、市中心部の西北に位置する北京大学と、隣接する清華大学が中国を代表する総合大学として君臨しています。
以前、講演会等の機会に清華大学を何度か訪問したのですが、正門付近で、親子で記念写真を撮る中高生の姿が多く見られました。皆キャンパスを訪れ、「ここで勉強するために受験勉強を頑張ろう」と思いを新たにするのでしょう。

北京大学では、近年夏休み時期の訪問者が急増し、入構時の身分証の確認等のために数時間待ちの行列ができるほどになりました。
そこで、大学当局は、今年から見学希望者に対する事前登録制を実施し、一日の訪問者数を3,000名に制限することにしました。
対象期間は先週末の7月14日(土)から8月20日(月)までで、見学希望者は大学のホームページあるいはWeChat(中国版LINE)上で登録を行います。
訪問受付時間は、午前が8時30分から11時、午後が2時から4時30分となっており、期間中は一人一回のみキャンパス訪問が可能となります。
登録を行った者は、家族や友人等を2名まで帯同することができ、また10歳未満の子供については、保護者の同行が必須とされています。
当日は、身分証を携行し、入口で顔認証が行われ、入構が許可されます。
また、教職員や学生等、大学関係者は、新たな制度を利用することなく、家族や友人などを3名まで帯同して入構することができます。

北京大学では、「事前登録を求めるが、入場料の徴収は行わない」としています。
しかしながら、学内では入場料を取ることについても検討されているそうで、大学のキャンパスが観光名所のようになるかもしれません。

清華大学でも、来週から北京大学と同様の事前登録制を実施し、ボランティアの学生がキャンパス内を案内するツアーを行うそうです。
訪問者が時間を浪費することなく、効率的に見学を行えるようになり、大学側ともども、満足度の向上につながりそうです。

日本では、中高生が大学キャンパスを訪問する機会と言えば、説明会(オープンキャンパス)や大学祭のようなイベント、さらに受験直前の下見等になるでしょうから、中国のように「親子で見学して記念写真」とは状況が大きく異なります。
日本では少子化の進行で、私立大学を中心に学生集めの競争が激化しており、推薦入学やAO入試等の多様化により学生を囲い込む動きも顕著になっています。
一方、中国では北京大学等を頂点とする大学の序列化、ピラミッド化が進んでおり、有名大学への進学は、本人だけでなく、家族を巻き込んだ一大目標になっています。
実際の入試では、省や市ごとに合格最低点が異なり、また少数民族には別枠があるなど、一律公平な制度にはなっておらず、さらに共産党や政府幹部の子弟には、特別な入学枠があるとも言われています。
生徒本人の努力だけでは越えられない、出自(出身地、民族、親の地位あるいは経済力等)による差、ハンディキャップが存在するのが現実です。
日本では、親の経済力の差により、「教育の機会均等」が崩れているとされ、高等教育の無償化等の政策が議論されていますが、中国の状況はより厳しいように思われます。

大学進学を志す中高生が、それぞれ良い進路を得て、将来、夢を実現することができるよう、願いたいと思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト