中国でのキャッシュレス決済の広がりについては、本コラムでこれまでもご報告しており、また最近では日本でも報道される機会が増えています。
最高額紙幣が100元(約1,700円)で、多額の支払を現金で行うことが不便であることや、偽札が横行していることが背景にあります。
以前は、銀行のキャッシュカードをデビットカードとして利用する銀聯カード(UnionPay)が主な手段で、例えばスーパーマーケットで買い物をすると、客の多くがキャッシュカードで支払っていました。
しかしながら、ここ2年ほどでしょうか、スマホアプリを利用し、QRコードで支払を行う方法が一気に主流となり、銀聯カードで支払う人はほとんど目にしないほどになりました。

現在、中国ではIT大手のアリババが提供する支付宝(Alipay)と、同じくテンセントが提供する微信支付(WeChatPay)が熾烈なシェア争いを繰り広げています。
仕組みは、日本でも利用が広がりつつあるApple Payと同様です。
日本でも、家電量販店や空港の売店、レストランなどで対応するところが増えており、ロゴマークをご覧になられた方もおられることと思います。中国では、例えば路上で朝食や果物を売る屋台や、さらには物乞いまでがQRコードを持っており、スマホがあればほとんどの支払が可能です。
そのため、日常生活では、「身分証とスマホがあれば大丈夫」ということで、現金を全く持たないという人も急増しています。
私はまだ経験がないのですが、日本人の友人がコンビニで現金で支払おうとしたところ、「釣銭が無い」と言われたそうです。
現金派にとっては、ますます肩身が狭いといったところです。

日本を訪問する中国人旅行客の増加に比例する形で、銀聯カードは多くの商店やレストラン、宿泊施設などで利用できるようになりました。
次はスマホ決済ということで、日本国内でも新たな動きが見られます。
沖縄都市モノレール(ゆいレール)は、6月22日から、Alipayで運賃を支払う実証実験を始めました。
沖縄には中国人旅行客が多く訪れ、またゆいレールでは以前から切符にQRコードが印字され、自動改札機でコードの読み取りが可能であるため、Alipayとの相性が良いことが背景にあります。
ゆいレールの改札システムは、日本の鉄道運営者で、初めて海外の決済システムに対応するものとなりました。中国人旅行客の利便性向上が期待されます。実験は一ヶ月間とのことですが、評価が注目されるところです。

Alipayは3年前に日本に進出し、現在約5万ヶ所の店舗、施設で利用可能となっています。日本ではオリックスが提携業者として加盟店契約や決済用機器のリースなどを行っています。
電子決済は、利用者にとっては現金やカードの出し入れに煩わされることが無く便利で、また商店などでは釣銭の用意や売上金の管理の手間が無くなるので、大きな負担軽減になります。
さらに、消費者の履歴(記録)をマーケティングデータとして活用できることが、事業者にとっての大きなメリットになります。
日本人的にはいささか抵抗もあるところですが、中国では利用履歴が「超ビッグデータ」として様々に活用されています。
日本でも、銀行がコスト削減のため、現金を伴うATMの管理や両替のサービスを縮小する傾向にあり、キャッシュレスの方向は止まらないものと思われます。Apple Payやほかのサービスを含め、いずれが高いシェアを獲得するのか、今後数年が勝負と思われます。

中国では、Facebook、TwitterやLINEが遮断されており、サービスを利用することができません。
代わりに、それぞれに類似したサービスを中国の事業者が提供しています。
例えば、LINEの中国版WeChat(微信)はテンセントが提供しており、中国ではビジネス、プライベートの両方で広く利用されています。
日本ではLINEが広く普及していますが、今後、中国人が広く使っているWeChatが、LINEを駆逐する時代が来るかもしれないと想像しています。
電子決済、SNSと、中国企業の動向から目が離せません。

様々な分野での中国勢の台頭が、日本での日常生活にも影響をもたらす予感がする話題でした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト