中国では、子供時代に経済発展の恩恵を受け、比較的高い生活水準を経験した1980年代から90年代生まれの人々が子を持つようになり、子供を連れての家族旅行の需要が拡大しています。
ホテルや娯楽施設など関連業界は、ビジネスチャンスと捉え、設備投資や新たなサービスの導入などを進めています。

オンライン旅行代理店最大手のCtripが、子を持つ同社の顧客に対しアンケート調査を行ったところ、回答者の89%が、昨年5月からの1年あまりの間に家族旅行に出かけたそうです。
89%の回答者の約半分が、6歳から14歳までの小中学生の子供を連れて旅行したとしています。

政府系研究機関である中国旅遊研究院の戴院長は、「子供連れの旅行の市場は成長中で、潜在需要は膨大であり注目している」と述べています。
1980年代から90年代生まれの世代が親となり、特に都市部では可処分所得も多く、旅行に支出する余裕も出ています。
中部の安徽省に住み、2歳半の娘を持つ31歳の男性は、「子供に中国の美しい自然や発展する都市を見せ、良い思い出にするとともに、家族の絆を深めたい」と話しています。
今のところ、旅行は近隣の景勝地へのドライブで、一回の費用は主に宿泊と食事で合計4,000元(約69,000円)から5,000元(約86,000円)となっています。

Ctripの推計では、家族旅行に伴うツアーや航空機、鉄道、宿泊などの予約の市場規模は、2016年の年間で207億元(約3,500億円)となっており、今年は500億元(約8,600億円)にまで成長すると見込まれています。
家族旅行を計画する親は、子供に良い体験をさせることができるよう、費用よりも質、内容を重視する傾向が強く、特に宿泊に金をかけるそうで、関連業界は絶好のチャンスと捉え、様々な工夫をしています。
赤ちゃんには昼寝のできる設備を、また幼児向けにはプールや遊び場などを充実させ、さらに宿泊施設では子供向けの朝食、客室に子供用の遊具や絵本などを提供しています。
Ctripの宿泊予約部門のマネジャーは、ホテルなどはこれまで設備やサービスが画一的で工夫が足りなかったと指摘し、収益拡大のため、家族向け客室の充実に努めるべきと述べています。
同社は先月、家族向けとして推奨する客室の標準的な条件を公表しました。
広さやデザインに加え、無料の子供用ベッド、子供用のバスローブやスリッパ、おもちゃや絵本、十分な量の飲料水の提供などを求めており、これらの条件を満たす客室を10,000室確保し、早期にウェブサイト上で提供したいとしています。

また、主に海外旅行を手掛けるオンライン旅行代理店は、日本や東南アジア諸国(タイ、シンガポールなど)が人気の旅行先とし、テーマパークや海洋公園、動物園などが人気のアトラクションになっているとしています。

中国旅遊研究院の戴院長は、旅行中の安全、体験の内容やサービスの質を重視する傾向が強まっていると述べ、今後は旅行関連業界の枠を越え、教育、科学、文化等の企業との連携が進む可能性があるとしています。
異業種との協働でより良い商品、サービスが提供されることを望みたいと思います。

北京-東京間の航空機内でも、赤ちゃんから幼児、あるいは小学生くらいの子を連れた家族連れの姿が目立ちます。
日本の自然の美しさやテーマパークなども魅力的ですが、社会秩序や清潔さ、あるいは質の高いサービスを体験することで、子供への良い教育になるという声も多く聞かれます。
日本の旅行関連業界にとっても、中国人の家族旅行のニーズをとらえることはビジネスチャンスになりそうです。

北京で生活していると、「若い人がお金を持っている」と感じることが多いのですが、家族旅行の話題もこれを裏付けているように思いました。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト