先週6月7日(木)から6月8日(金)まで(一部では6月9日(土)まで)、中国全土で統一大学入試「全国普通高等学校招生入学考試(高考)」が行われました。
日本のセンター試験は1月中旬頃の土曜日、日曜日に行われますが、高考は曜日にかかわらず、毎年6月7日からの2日間ないし3日間の日程となります。
試験問題や配点は省や市により異なり、また日本の二次試験に相当する大学ごとの試験が原則行われず、高考の成績のみを以って合否が決まることが特徴的です。
そのため、受験生にとって、高考は一発勝負でかつその後の人生を左右しかねない一大イベントとなります。

日本では、センター試験を採用する大学が増えているにもかかわらず、志願者数や受験者数は近年微増にとどまっています。
18歳人口と大学進学率がいずれも横ばいとなっていることが背景にあります。
中国でも、昨年までの3年間、高考の受験者数は940万人程度で推移していましたが、今年は975万人、3.7%増と久々に大きな伸びを見せました。前年から35万人の増加は8年ぶりの大きさだそうです。
今年の受験生の多くは2000年生まれで、中国ではこの年が縁起の良い年とされ、ベビーブームが起こったため、今年の高考の受験者数増加につながりました。
ちなみに、2000年の新生児数は1,771万人で、一人っ子政策が完全に撤廃された2016年(新生児数は1,846万人)に16年ぶりに超えることになりました。
「子供は親を選べない」と言いますが、生まれてくる年も選ぶことはできません。大学受験の後も、就職や結婚などライフイベントの度に、同世代との激しい競争にさらされ続けることになるのかもしれません。

さらに遡ると、高考の受験者数は2008年、北京オリンピックの年に1,050万人を記録した後、10年間これを下回ったままです。
中国でも日本と同様、大学進学率の大幅な上昇は難しいものと見られており、また若年人口の増加も期待薄ですので、2008年の記録を更新することはないのかもしれません。

受験生それぞれにとっては、自身の将来のため、高校の3年間、あるいはそれ以前から、この日のために猛勉強に励まねばなりません。
美術史専攻を志す女子生徒は、「この3年間頑張って勉強したことで、『努力は必ず報われる』と確信するようになった」と話しています。
一方、別の受験生は、「もし高考の成績が振るわない場合には海外留学を考える。そのため、あまりプレッシャーを感じていない」と余裕を見せています。
日本では、親の経済力が子供の教育格差につながると指摘され、高等教育の無償化や給付型奨学金制度の創設など、新たな施策が講じられていますが、中国でも、子の教育に親の財力が物を言う傾向が強まっているように思われます。

熾烈な競争をもたらし、また大学の序列化につながっているなどとして批判も多い高考ですが、受験生の間では肯定的な捉え方が多くみられます。
北京の男子生徒は、「皆が同一の目標に向け競い、頑張ることで、より勤勉になる」と高考受験の効果を挙げています。

受験生も大変ですが、親にとっても高考は一大行事です。
日本ではあまり見られませんが、試験会場への送迎は当然に行われています。
中には、子が良い成績を得られるようにということで、夏の暑い中、幸運を呼ぶとされる伝統的なチャイナドレスを着用して試験会場に駆け付ける母親もいるそうで、高考が家族一丸で臨むものということが理解できます。

中国の高考は第二次世界大戦後に始まり、70年近い歴史を持ちますが、果たしてこれからも変わらず続いて行くのか、あるいは日本のようにAO入試や推薦入試など多様化が進むのか、興味深いものがあります。
教育制度や入試制度に、国の社会規範や価値観などが反映されていることを、改めて認識させられた話題でした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト