※2018/5/2から掲載日を隔週金曜日に変更しております。
北京など中国の大都市には、頑張って一旗揚げよう、故郷に錦を飾ろうと夢見る人たちが全国から集まっています。
住居費を初めとする生活費の高騰、大気汚染や交通渋滞に象徴される都市問題など障害も山積なのですが、就業機会が豊富で賃金水準も高く、また国内市場が大きくかつ成長していることで、起業による成功のチャンスも多いことから、人口の流入が続いています。
北京市は人口の増加を抑制する政策を取っているのですが、最近では「一線都市」と呼ばれる北京、上海などに代え、より経済成長率が高い他の大都市が人気となっており、流入人口が地域経済の発展の原動力になっています。
地方から都市を目指す人々と同様、中国の成長に期待し、成功を夢見る外国人も増えています。IT分野での起業が典型例です。
カナダ人の30歳の男性は、昨年6月に、VR(仮想現実)技術の開発を行う会社を、上海市に隣接する浙江省の杭州市に設立しました。
現在、従業員は30名ほどで、中国人のほか、ポーランド、ロシア、米国やアフリカのウガンダ出身者を含む「多国籍部隊」となっています。
男性の会社は、中国の書道(書画)とVR技術の融合を目指しています。
杭州市は、IT大手のアリババグループなどの本社があり、IT系の人材が豊富なことで知られています。また、12世紀から13世紀の南宋時代に首都が置かれるなど古都としても知られるほか、世界遺産の景勝地西湖を擁するなど風光明媚なことから、歴史的、文化的にも有名です。
男性は、杭州市の歴史や文化に触れることで、VR技術の開発への刺激を受けていると話しています。
また、28歳のロシア人の男性は、東部シベリアの大学で中国語を学んだ後、南部広東省の省都広州市に移り、数年前に中国に関する情報をロシア語で発信するウェブサイトを開設しました。現在はコンサルティングとネット通販事業も手掛けているそうです。
中国とロシア(旧ソ連)は、歴史的にも関係が強く、貿易や人材の交流も盛んです。北京の中心部、事務所からほど近いところにはロシア人街があります。
ウェブサイトへの訪問者、ネット通販の利用者ともに増加しており、男性は、「外交官になるという子供の頃の夢は果たせなかったが、違う形で中国と諸外国をつなぐことができている」と喜んでいます。今後は、ロシアの起業家や投資家に中国での機会を提供していきたいと意気込んでいます。
中国では、多くの諸外国と同様、外国人の就業については厳しく制限しており、例えば日系企業の駐在員についても、「中国人では代替できないのか?」と尋ねられる場面が増えているそうです。
幹部クラスですとさほど問題にはならないようですが、日本人を数多く派遣している企業では、若手社員の労働ビザの取得や更新が年々厳しくなっていると聞きます。
そのような中でも、製造業とインターネット関連分野を強化するという政府の方針が追い風となり、IT技術者や起業家には門戸が開かれています。
「中国の発展に貢献してくれる人材であれば歓迎する」ということなのでしょう。
国内市場が膨大で、「一発当てれば見返りが大きい」中国はやはり魅力的です。
国内だけでなく、海外からも人材とお金を引き寄せている現状は、日本にとっても脅威です。
日本でも、中国語を学習する学生、生徒が増えていると言われていますが、中国に渡って起業とは行かないまでも、この勢いを何らかの形、方法で取り込むことができれば、既に人口が減少し、経済規模の縮小も予想される中、大きなプラス材料となりそうです。
若い人達の努力と工夫に期待したいと思います。
外国人と投資マネーを取り込む中国に、またまた勢いと将来性を見せつけられたように思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト