中国では、長きにわたって農業と工業が産業の中心となっていましたが、経済成長に伴い、サービス業が急成長し、従事する労働者も急増しています。
農村部からの出稼ぎ労働者は、以前は工場や建設現場で就労することが多かったのですが、近年では運送業等の求人が活発で、鉄鋼、石炭など重厚長大産業でリストラに遭った労働者の雇用の受け皿にもなっています。
大学卒業生の就職先も、以前は公務員あるいは国有企業が人気でしたが、近年ではIT系の大手企業が一番人気となっています。
日本の高度成長期の出稼ぎ労働者、バブル期の金融、不動産やサービス業の伸長、さらに近年のIT産業の成長が中国では同時並行で見られます。
日本では、徐々に雇用の流動化が進んでおり、特に最近では大学卒業生の新卒での就職後の在籍期間が短くなっていると言われています。
「第二新卒」という言葉もすっかり定着しましたし、学生は入社後の離職率を重視しているとも言われます。いわゆる「ブラック企業」を見分けるためにも当然のこととも思えます。
中国では、日本以上に雇用が流動化しており、大手企業の従業員も、多くが自身のキャリアアップのため転職の機会をうかがっています。
また、ブルーカラー労働者や商店、飲食店などの従業員は、給与や福利厚生などで少しでも良い条件のところがあると、簡単に転職します。
春節(旧正月)の連休に帰郷し、連休明け後に転職する人が多く、工場や商店の経営者は、春節明け後に従業員が戻ってくるかどうかに頭を悩ませています。
多くの中国企業では、春節前に年一回の賞与を支給するのですが、春節後の離職を防止するため、最近ではこれを、「春節明け後に戻ってきたら支給する」とするところも増えているそうです。
最近では、スマホの普及により、以前には見られなかった就業の形態が現われ、労働条件等を巡る争いも増えています。
例えば、北京でも急速に利用が広がっている料理の外売(出前)の場合、飲食店がスマホアプリで配達員を募り、応募した者が商品を注文主のところまで配送します。飲食店からみると、スマホアプリで運送業者を探す感覚ですが、配達員は組織に属しておらず、個人で配送を請け負う形になります。
また、ある有名な美容関係のアプリでは、ネイルペインティングの技術者とサービスの利用者がアプリ上で利用の予約を交わし、予め合意した日時、場所で施術が行われます。
このようなケースで、雇用者-被雇用者の関係が生じるのか否かにつき、争いが生じており、訴訟も増えています。
美容アプリの事例では、2016年に雇用関係は存在しないとの判決が下されました。技術者が自らの判断で日時と場所を決め、施術を行っていることや、報酬についてアプリの運営者と特に取り決め等を行っていないことが決め手となりました。単にサービスの供給側と需要側の仲介を行っているのみと判断された訳です。
雇用関係の存在が認められるか否かは、社会保険の加入対象とされるかなど、労働者の権利に重要な影響を生じさせます。専門家は、客観的な判断材料として、例えば就業時間や場所を指定されるか等が重要であると指摘し、労働者側に、アプリを利用して仕事を得る場合には十分注意するよう呼びかけています。
また、南部海南省の裁判官も、スマホアプリの利便性を認め、アプリが多くの就業機会を提供しているとしつつ、利用の広がりを受け、より厳格な規制が必要と指摘しています。
日本でも、「偽装請負」など雇用関係の有無を巡る争いがありますが、中国では日本以上に法規制が実態に追い付いていない印象があります。
今後、判例の積み重ねと法規制の整備により、就業機会の提供と労働者の保護の両立が図られるよう、期待したく思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト