北京でも、ようやく陽射しが明るくなり、春本番となりました。
木々が一斉に芽吹き、新緑が鮮やかです。
先月末には一時最高気温が30℃に達し、半袖の出番となったのですが、その後寒さがぶり返し、先々週には雪も舞いました。
何とも激しい陽気です。
現在は、まだ朝方の気温が10℃前後で、ひんやりとした感じですが、これから一ヶ月間ほどで一気に気温が上昇し、5月の後半には夏がやってきます。今年は冬の寒さが厳しかったので、春から夏への移り変わりが特別にありがたく感じられそうです。

厳しい寒さとなった一方、この冬は悪名高い大気汚染がかなり緩和され、救いとなりました。
先月開催された全国人民代表大会でも、環境問題の解決が重点政策に盛り込まれ、習近平政権が国民の生活水準の向上のため、環境問題を重視していることが理解できます。
水や土壌の汚染、ごみ問題なども深刻ですが、北京周辺では大気汚染が人々の健康に悪影響を及ぼしていると問題視されており、自動車の排ガス規制の強化、建設、解体工事の制限などに加え、冬場の暖房用の石炭燃焼の制限など、様々な対策が講じられています。

日本のテレビニュースでも報じられていましたが、北京周辺では石炭の使用が厳しく制限され、違反者について当局への通報が奨励されるなど、人々の生活にも影響が生じました。
特に、天然ガスの供給など代替手段の整備が進まなかったため、小学校で寒さに震えながら屋外(太陽光の下)で授業を受ける子供たちの様子などが伝えられていました。

地元政府は大気汚染の緩和を政策の効果として自画自賛していますが、厳寒の冬に暖房が十分でないことは、命の危険さえ伴うものです。
天然ガスへの切替のため、供給網の整備を図っているのですが、特に農村部の人々は、コストや安全性の問題から、慣れ親しんだ石炭からの切替に抵抗感が強く、政府のもくろみ通りには進んでいないそうです。
地方政府は天然ガスヒーターを各家庭に配布し、機器の検査担当者を育成して各家庭の巡回に当たらせたり、また天然ガスのメリット等について周知に努めています。
天然ガスの利用を始めた家庭では、すすが溜まらず汚れが生じないこと、また石炭(平均的な家庭で一冬に3,000元(約51,000円)を支出)に比べてコスト(天然ガスは同3,800元(約65,000円)程度)がさほど高くならないことなどへの理解が進んでいるそうですが、今後都市部から離れた、より所得水準が低い農村部で普及を進めるためには、金銭面での補助など、目に見える形でのインセンティブ(にんじん?)が必要にもなりそうです。

自動車に関する規制(排ガス基準を満たさない古い型式の車両の使用禁止や、硫黄分の高いガソリンの販売禁止など)も同様ですが、中国では、国民の所得水準や環境問題に対する理解などに地域差が大きく、全国一律での政策運用、規制の適用などが困難になっています。
発展の遅れた内陸部などでは、地方政府も「環境問題への取組よりも経済発展」との姿勢が根強く、砂漠化の進行により深刻さを増している黄砂とあわせ、都市部だけでの努力では限界があるというのが現状です。
国内での経済格差が残る限り、さまざまな問題の根本的な解決は難しいように思えてなりません。

大気汚染が軽減されたことを素直に喜びたいところなのですが、裏では中国ならではのさまざまな問題が残ったままとなっていることを再確認させられた話題でした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト