中国で多くの人々に愛される花と言えば、牡丹や梅が代表的なものとなります。
その他、菊や蓮、蘭なども人気があり、これらに、近年日本旅行で多くの人が美しさを知った桜が割り込む形になっています。
中国各地にも、戦前の日本植民地時代に植えられた、あるいは近年日中友好のための様々な活動の一環として植えられた等により、各地に桜の名所ができています。

中部湖北省の武漢にある武漢大学のキャンパスも、そのような名所の一つです。
美しさでは中国一とも言われています。
戦前、日本軍がキャンパスを接収した際に植樹を行い、さらに戦後には田中角栄元首相が周恩来元首相夫人に贈った苗木などが植えられ、600mの並木道ができているそうです。
花見のシーズンは3月下旬で、毎年地元だけではなく、中国各地から多くの人が訪れ、美しい花を観賞しています。

近年、訪問者が急増し混雑が限界に達したため、今シーズン、大学は入場者を平日は一日15,000人、週末は同30,000人に制限し、3日前までの予約制により入場整理券の発行を行い、混乱の回避を図ることとしました。
ところが、以前のピーク時には一日に200,000人も訪れていましたので、供給不足は明らかで、訪問者の不満が高まり、またダフ屋が横行するという事態を招いてしまいました。
キャンパスへの入場は無料なのですが、ダフ屋は1枚100元(約1,700円)ほどで整理券を販売しているほか、中には学生や職員の身分証(入構証)を貸与する手口も現れたそうです。
真偽のほどは不明ですが、ダフ屋行為を行う者の多くは、「自分は武漢大学の学生である。学費を稼がなければならない」等の説明をし、遠方からの観光客などの同情を引いたのですが、残念ながら(?)他人の身分証では入場時のチェックポイントを通過することができず、観桜という目的を果たすことができなかったそうです。

中部西安からの訪問客は、「武漢滞在が2日間なのに、3日前までの予約が必要というのはあまりに不便で、ダフ屋に頼らざるを得ない。大学はダフ屋を批判するのではなく、訪問客を適切に捌くことができない自身の管理能力の低さを恥じるべき」と不満を述べています。

武漢大学のケースは、観光地として売り出すことを目的としている訳ではありませんので、大学側にもちょっと同情してしまいますが、最近は中国各地で、桜への人気の高まりを受け、新たな名所を作ろうという動きが広がっており、苗木の争奪戦も起きているそうです。
日本でも、桜の枝を折るなど、中国人旅行客のマナーに問題ありなどと報じられていますが、何とか騒動が落ち着いて、多くの人が美しい花を楽しめるようになることを望みたいと思います。

中国では、病気になり医師の診察を受けようとする場合に、大病院での受診を希望する人が多く、受診のための整理券を売るダフ屋が出没するそうです。何でも商売の種にしてしまうところは、中国人の才覚として感心してしまうところもあります。
武漢大学での騒動も、いかにも中国らしい話題です。
中国では春分、秋分は平日で、二十四節気で春分の次となる「清明」が祝日(清明節)になります。今年は明日5日(木)です。日本にも多くの人が花見のために訪れそうですが、今年は特に開花が早く、東北あるいは北陸あたりに足を伸ばす必要がありそうです。天候に恵まれ、多くの旅行客が花見を楽しめるよう願いたいと思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト