経済成長が続く中国では、海外への旅行客が増加を続け、また国内の移動にも航空機を利用する人が増えていることから、国内線、国際線ともに需要が伸びています。

国内の長距離移動は、長く鉄道とバスが主力の交通手段でしたが、近年高速鉄道網が充実し鉄道利用者がさらに増え、あわせて航空便の就航と増便も相次いでいます。

高度成長期以降の日本と同じような状況となっています。

 

中国政府で民間航空事業を管轄する中国民用航空局によると、昨年、中国で供用されている民用航空機は3,296機に達し、年間の総飛行時間は初めて1,000万時間を超えたそうです。

利用客の総数は前年比12.6%増の5.49億人となり、今年も同11%の6.12億人と2桁の伸びが予想されています。

世界一の航空大国と言えば米国になりますが、世界の航空会社が加盟する国際航空運送協会(IATA)は、2022年には中国が米国を抜き、輸送量の指標である有償旅客人キロで世界第一位になると予想しています。

また、中国に加え、アジア太平洋地域での需要増も顕著と指摘し、インド、インドネシアとタイが、遠からず世界のトップ10に名を連ねると見ています。

 

旅客数の増加だけでなく、アジア太平洋地域ではビジネスの活発化に伴い、航空会社の業績に大きな影響を与える上級クラス(ファーストクラス、ビジネスクラス)の旅客数が伸びると見られています。地域内の路線、またアジア太平洋地域を発着する長距離路線での需要増が期待されており、航空会社各社は新路線の開設、増便とサービスの向上に力を入れるものと見られます。

残念ながら、日本の航空会社はファーストクラスを縮小する傾向が止まらず、現在アジア太平洋路線での設定は皆無となっています。

需要があればこそですので、当然と言えばそれまでなのですが、経済の勢いの差が航空会社の戦略にも影響をもたらしています。

 

北京では、空の玄関口である首都空港の離発着処理能力が限界に達しており、上海、台北やソウルなどには多くみられるLCC(格安航空会社)の就航がほとんどない状況です。

来年2019年には新空港(大興空港)の開業が予定されており、2022年の冬季オリンピック、パラリンピック開催の頃までには、北京発着便が大幅に増加するものと見られています。

現在大幅な供給不足と言われている北米への便や、欧州各都市への路線で新規就航や増便が相次ぐことが期待されています。

北京から北米への直行便の不足により、現在は成田経由で移動する旅客も多数に上っているのですが、将来は様相が一変する可能性もあり、日本の航空会社の戦略にも影響を与えることが予想されます。

 

日本では、特に若年層での海外旅行熱の低下が指摘され、また何よりも人口減少が始まっていますので、国際航空輸送の需要は先細りが避けられません。

世界の各航空会社も、自ずと成長が期待できる中国、あるいは東南アジアに軸足を移すことが考えられます。

さすがに日本の航空会社が欧米路線から撤退することは考えにくいですが、諸外国の航空会社が日本路線の維持に消極的になり、将来例えば日欧間の移動は北京経由、あるいはドバイ、アブダビなどの中東経由が主力のルートになるのかもしれません。淋しい話ですが、現実を見ますと認めざるを得ないように思われます。

 

北京と東京の間の航空便も、年々中国人の乗客が優勢となり、またビジネスクラスでは中国人の家族連れの姿が目につきます。

空港や機内でちょっと観察するだけでも、いろいろなことに気づかされるように思います。

 

世界の航空輸送需要の動向から、中国経済の勢いと日本との差を痛感させられることとなりました。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

 

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト