春節(旧正月)の連休が明けてから三週間が過ぎ、北京ではようやく経済活動が平常ペースに戻ってきました。
春節の連休は、伝統的に帰省に充て、郷里で一族郎党が一堂に会し、盛大に年越しの宴会を行うものとされてきました。
北部では水餃子が、また中部、南部では湯円(主にもち米で作る白玉団子)が年越しの料理とされ、各地にさまざまな正月の料理や風習があります。
特に、地方から都市部への出稼ぎ労働者(農民工)にとっては、春節が年に一度の帰省の機会となっており、一年間の稼ぎを手にし、また郷里で待つ子や親族に大量のお土産を買って、喜々として列車やバスに乗り込む姿が毎年年末の風物詩となっています。

「春節の帰省を楽しみに、一年間頑張って働く」という人が多い中国ですが、若年層を中心に、徐々に変化も生じています。
所得水準が向上し、いつでも好きな時に帰省できるようになった人達の間には、混雑する春節の時期は避けたいとの考えが広がっており、また独身者にとっては、帰省の度に両親や親族から「早く結婚せよ」とのプレッシャーを受けるため、自ずと郷里から足が遠のいてしまいます。このあたりは日本とも重なる光景です。

帰省にこだわらない人達にとっては、一週間の連休は格好の機会と言うことで、年々海外旅行に出かける人が増えています。
また、年越しは郷里で過ごし、年明けから海外へという人も増えており、旅行業界は魅力的な旅行先をいろいろ宣伝し、集客に努めています。
日本への訪問客も年々増えており、ホテル、小売、飲食など関連業界が活況に沸いているとも報じられています。
友人が某ディスカウントストアで訪日旅行客向けの企画と販売を担当しているのですが、春節は中国、韓国からの旅行者で大変な忙しさだったそうです。

米国や欧州も人気の旅行先ですが、北部の人達には温暖な東南アジアやオーストラリアが人気で、一方南部の人達は雪と氷を求めて北海道やロシア、北欧などに多く出向いているそうです。
旅行業に関する研究機関である中国旅遊研究院と、オンライン旅行代理店最大手のCtripが共同で作成したレポートによると、今年の春節期間中の海外旅行者の行先別内訳は、1位がタイで23%、次いで日本13%、香港とマカオ11%、シンガポール10%、ベトナム7%となりました。
これまで人気の旅行先であった韓国は2%にとどまり、外交関係の悪化が影を落とした形となっています。
今年は、訪問先の多様化が一段と進み、調査では70ヶ国の800ヶ所に達しました。ベルギー、ポーランド、アルゼンチンから南極など、ややマニアックとも思える先への旅行者も増えているそうです。
日本ももちろんですが、大挙して押し寄せる中国人旅行客の需要を獲得しようと、世界の各地で関連業界が熾烈な戦いを繰り広げています。

私は春節期間中にパリを訪問したのですが、有名百貨店のプランタンで数多くの中国語の案内表示を目にしました。
また、美術館などの観光名所でも、中国語の音声ガイドなどの対応が進んでおり、今や日本語を完全に凌ぐ状況となっています。
ちょっと淋しい思いもいたしますが、「多勢に無勢」で致し方のないところでしょうか。

一時期は落ち着いていたのですが、このところ東京から北京行きの航空便の乗客が、空港の売店で購入した大量の土産物を機内に持ち込み、座席上の荷物収納スペースが不足することが増えてきました。
おそらく、「日本旅行初心者」が継続的に訪問し、爆買いをしているのでしょう。中国人海外旅行客の勢いはまだまだ衰え知らずのようです。ホテルの需給ひっ迫など悪影響も懸念されますが、ぜひ日本でたくさん消費し、経済に貢献して欲しいと思います。

「中国人海外旅行客の勢いは変わらず」を再確認させられた話題でした。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト