日本でもその名を知られる「茅台酒」は、中国全土で広く飲まれる蒸留酒「白酒」の代表的な銘柄で、中国の「国酒」とも言われます。
国賓を招いての晩餐会などで用いられ、また高級レストランのメニューにも、だいたい末尾に堂々と鎮座しています。
日本の中華レストランでも、ボトル一本が数万円程度で提供されています。
ご覧になられた方も多いことと思います。

白酒は、ウォッカ、テキーラやブランデーと同様、アルコール度数が高いお酒で、高級品は50度を超えるものが普通です。
中国でも、日本と同様若年層でのお酒離れ、特にハードリカーの人気の低下が進んでおり、ワインやカクテルなどの消費が増えているのですが、白酒は宴会には欠かせないものとなっており、ショットグラスのような小さな盃を用い、宴会の参加者同士ですすめあうのがお約束です。
日本の宴席で、徳利と猪口で日本酒をすすめあうのと同じイメージですが、アルコール度数が3倍は違いますので、調子に乗るととんでもないことになります。

茅台酒は、共産党や政府機関、民間企業やホテル、レストランの宴会での需要が多く、生産が追い付かない状況にあります。
そのため、市場では日本の焼酎やウィスキーの一部銘柄のように、プレミアム付の価格で売買されているほか、偽物も横行しており、正規品よりも多い量の偽物が出回っていると言われています。
日本の空港の免税店でも茅台酒が売られており、「一体誰が買うのだろう?」と思ってしまうのですが、どうも日本で買えば偽物の心配が無いということで、中国人が購入し本国に持ち帰ることもあるようです。

茅台酒は、製造元(中国貴州茅台酒有限責任公司)から代理店を経由して市場に流通しているのですが、転売で利ザヤを稼ぐ業者も横行しているそうで、品不足とあわせ消費者の不満が高まっていました。
そこで、製造元では増産に加え、現在30%となっているネット通販の割合を60%程度に高める計画です。もちろん、いつでも自由に購入できるとまでは行かず、予約制での販売になるそうですが、それでも偽物の心配なく、かつ正規の価格で購入できることは、消費者にとって大きなメリットになります。
業界関係者は、今回の改革を評価する一方、今後偽物の撲滅と市場での取引価格の監視に一層注力する必要があると指摘しています。
茅台酒の流通の透明性向上がどこまで進むか、製造元に加え、流通業者の姿勢も問われるところです。

日本でも、ウィスキーや焼酎の一部銘柄が、流通量が少なくプレミアム付の価格で取引されています。
私も焼酎を何度か購入したことがありますが、定価で購入するチャンスがほぼ無いためやむを得ないと思う一方で、何となく割り切れない思いとメーカーへの不信感のようなものを感じざるを得ませんでした。
茅台酒も、習近平政権下で贅沢な宴会が控えられるようになり、また若年層の嗜好の変化もあり、将来も安泰とは言い切れません。
長く消費者の支持を得るためにも、流通改革は避けて通れない課題と思われます。

茅台酒の流通という、いかにも中国らしい話題ですが、日本と重なるところもいろいろ見えるように思いました。
=====================================

コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト