北京市は、定住人口2,170万人を擁する大都会で、加えて統計データに乗らない(市の戸籍を持たない)出稼ぎ労働者等も多数居住しています。

面積も16,410㎢と広大で、日本の都道府県の面積ランキングに入れると、岩手県よりも広く、北海道に次ぐ第二位になります。

北京と言えば天安門広場や人民大会堂がイメージされるかと思いますが、北部には万里の長城が連なる丘陵地帯もあり、また市面積の多くを占める郊外地域では、野菜や果物などの農業が盛んです。

中国では居住と移転の自由が認められておらず、居住地で住民としてのサービスを受けるためには、当該地(例えば北京市)の戸籍を持つことが必要です。

地方都市では、産業振興等のため、転入者に積極的に戸籍を与えているところもありますが、北京市は人口増に伴う交通渋滞、地下鉄の混雑や大気汚染に悩まされており、また水資源の不足も深刻な状況にあるため、戸籍の付与を厳しく制限して人口増を抑制する政策を取ってきました。

それでも、出生による自然増に加え、就職や結婚などにより新たに戸籍を取得する者もおり、市の人口は長く増加を続けてきました。

その人口が、昨年2017年に17年ぶりに減少に転じたと、市統計局が発表し、注目を集めています。

市の人口は、2011年から増加が鈍る傾向を見せ、2016年には24,000人の増加にとどまっていました。昨年2017年は22,000人の減少に転じたとのことです。

市政府は、大気汚染対策の一環で工場を市外に移したことが人口減少につながったと評価しています。

現在の人口2,170万人のうち、1,880万人が中心6区(東城区、西城区、朝陽区、海淀区、豊台区及び石景山区、合計面積は東京23区の2倍強)に居住しており、残りの290万人が郊外地域に居住しています。

市政府は、中心6区の人口を、2020年までに1,085万人までに減らすという大胆な目標を掲げており、そのために東部の通州区に新都心を建設し、政府機関の一部を移設する計画を進めているほか、南部の大興区で2019年に新国際空港の開業が予定されていることから、空港周辺での産業集積と人口の移動にも期待を示しています。

その一方で、市全体の人口は、現在よりも多い2,300万人を維持したいとしており、中心部での人口減少と郊外での増加の両立を目指しています。

公共交通、行政サービス等についてどのようにバランスを取るのか、難しい舵取りを求められそうです。

とりあえず、総人口が減少に転じたことで、教育、医療などの需要も一服することが見込まれますので、市政府にとっては、「一息つける」といったところでしょうか。

とは言え、人口が郊外に広がることで、希少資源である水の供給など、新たに市の負担となる要因も山積しています。時間的な猶予が得られた分、市政府には先を見据えた政策の策定と実行が求められるところです。

戸籍制度を利用して人口動態をコントロールするというのも、中国ならではの話ですが、それでも賃金水準が高く、就業機会も多い大都市への流入圧力は強いものがあります。

市としても、経済規模の維持拡大のため、できれば人口増を許容したいところでしょう。数年後には総人口の減少が始まる中国で、「自分たちが良ければ」の政策がどの程度持続性を持つのか、日本の都市と地方の姿も重なり、非常に気になるところです。

北京の人口推移に、日本が抱える問題との共通点も見えるように思いました。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト