北京の大気汚染につきましては、これまでも本コラムにて何度かご報告申し上げておりますが、この冬の状況は昨年までと比べて大きく改善しています。
昨年までは、冬場は「天候は晴れ、しかし空は白色」が常識という感じだったのですが、今年は青空の日が多くなっています。
数年前には、視程が数百メートルくらいの酷い汚染が発生し、日本でもその様子が頻繁に伝えられていました。一昨年くらいから、そこまでの酷い汚染は見られなくなり、徐々に好転していることが感じられていたのですが、今年の改善ぶりは顕著で驚くほどです。

データでも変化が確認されており、北京市の環境保護局によりますと、先月1月の北京市の微小粒子状物質PM2.5の濃度は、昨年1月に比べ7割も低下したそうです。
また、1月は2013年以降の秋~冬のシーズンで、初めて「危険水準の汚染」が全く観測されない月になりました。
さらに、1月の実績は、2012年に現行の環境基準が定められてから初めて、PM2.5の基準値(1㎥当たり35マイクログラム)を下回りました。
比較的空気が綺麗になる夏から秋よりもさらに良くなったそうですので、びっくりと言う以外にありません。

北京で生活する者としては「ありがたい」の一言なのですが、背景には政府が講じた様々な強硬手段があり、市民の生活や経済活動にも影響が生じています。
石炭の使用が厳しく制限されたため、所得水準が低い家庭では暖房の手段が絶たれ、生活や健康維持に支障が出ています。
また、有無を言わせぬ形での工場の操業停止、強制移転や、建築工事、解体工事の制限、さらには古い型式の車両の強制廃棄など、日系を含む多くの企業で生産活動、経済活動が影響を受け、各社の収益や従業員の生活にも深刻な事態となっています。
車両の廃棄などは、日本であれば「財産権の侵害」となるところですが、政府(共産党)の決定が第一の中国では、個人や企業は無力です。
日系企業にとっても、法制度の変更や政府機関からの種々の指導等は重大なリスク要因となっているのですが、中国で事業を遂行するためにはこれを所与のものと考えざるを得ません。特に製造業の各社にとっては厳しい事業環境となっています。

汚染が緩和され、次の注目材料は春節(旧正月)時期の風物詩となっている花火と爆竹です。
毎年、深刻な大気汚染が発生していることから、今年は市政府が中心部での販売と使用を全面的に禁止しました。
ここ数年、徐々に規制が強化されていたのですが、今年は一気に厳しくなりました。今年は明後日の16日(金)が春節となり、年が改まる午前零時頃が使用のピークになりますので、果たして規制が守られるのか、注目してみたいと思います。

日本では寒波と大雪で、北陸地方を中心に大変な事態となっていますが、北京でもこの冬は寒さが厳しく、また北風も強いように思われます。
北京の大気汚染を酷いものにしている要因として、地形(西側と北側の山に遮られて汚染物質がたまりやすい)と気候(冬場はあまり風が吹かない)があるのですが、今年は寒波の影響か、風の吹く日が多く、これも汚染の緩和(原因物質の拡散?)に寄与しています。
中国気象局(日本の気象庁に相当)の発表によれば、2月後半は寒波と風が治まる予想となっており、北京周辺に汚染物質が滞留しやすくなるそうです。
春節の連休中は、工場が停止し、車の通行も少なくなりますので、汚染物質の排出量は減少するはずなのですが、風が止まると状況は急変します。
1月が良かったとはいえ、まだ安心はできないというところです。

大気汚染問題への取組状況に、中国政府の強い意思と権力を見ることができます。良い面ばかりではないと考えさせられるとともに、このまま順調に改善が進むのか、なお注視が必要と思わされるニュースでした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト