中国では、特に男性の間で喫煙習慣が根付いており、数年前までは、例えば友人同士の歓談の際に煙草を勧めあったり、また企業の応接室にも煙草が置かれていたりといった状況が普通に見られました。
1980年代くらいまでの日本と同じような光景です。
それでも、喫煙が健康にもたらす影響、特に受動喫煙の問題が世界的に注目されたことに歩調を合わせる形で、公共の場での喫煙に対する規制が徐々に強化されています。
北京では、2015年6月より、公共のスペース、オフィスビルや交通機関での喫煙が禁止されました。屋外での喫煙は基本的に可ですので、当事務所が入居するオフィスビルや、隣接するホテルでは、それぞれ入口脇に喫煙スペースが設けられています。

レストランも全面禁煙なのですが、規制の施行直後は、「禁煙」との掲示があっても、要求すれば店員が灰皿を持ってくるような状況でした。
2年半を経て、徐々に効果が上がっており、最近では深夜営業の食堂等を除き、喫煙はほぼ見られなくなりました。
同様に、規制の対象であるバス停での喫煙も、以前は頻繁に見られたものの、最近ではほぼなくなりました。非喫煙者にとって残る難敵は、規制の網がかからない歩きたばこになっています。

北京市の衛生計画生育委員会によると、昨年2017年時点での市の喫煙者は399万人、成人人口に占める割合は22.3%となっており、規制の施行開始から20万人減少したそうです。
禁煙が徐々に浸透していることの背景には、市民の健康意識の高まりもありますが、罰則規定の存在も大きいと見られています。
禁止とされる場所で喫煙したものに科される罰金は上限200元(約3,500円)とさほどではないのですが、違反行為があった公共スペース等の管理者にも罰則が科されることとなっており、これが管理の厳格化と違反行為の減少をもたらしています。

北京市の衛生計画生育委員会は、規制の順守状況を確認するため、昨年9月から11月にかけ、公共施設(レストラン等を含む)1,227ヶ所とタクシー224台を対象に調査を行いました。
ネットカフェとカラオケ店で、規制に違反しての喫煙が目立ったほか、オフィスビルの12.9%、ホテルの7.4%で喫煙が認められました。
またタクシーでは、40%で喫煙規制に関する表示がされておらず、22%で運転手が客の喫煙を認めていました。
2016年くらいまでは、私もタクシー利用時に運転手が喫煙と言う場面に遭遇したのですが、最近はさすがにそこまでの状況は見られなくなっています。
喫煙規制の浸透状況はまだら模様と言うのが現状ですが、今後も着実に広がっていくように思われます。

経済発展の状況と同様、煙草に関する意識も都市部と地方との間には大きな差があります。
また、生活習慣である喫煙については、世代による意識の差も大きなものがあります。
航空機や列車内での喫煙を巡るトラブル等も時々報じられていますが、これなども人々の間での認識のばらつきが背景にあるものと思われます。
国としての発展途上であるが故の事象と言えますが、今後なお時間を要するものの、意識の底上げは着実に進むでしょうし、ぜひ期待したいところです。

禁煙を巡る状況に、中国国内の格差や、日本の高度成長期から現在までの変化が重なって見えるように思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト