前回更新分の本欄では、ドル/円について「一つに31週移動平均線(31週線)をクリアにブレイクできるかどうかに注目」、「(次に)今年の3月高値と5月高値を結ぶレジスタンスラインをクリアに上抜けるかどうかという点にも要注目」などと述べました。

結局、先週のドル/円の週足は31週線をクリアに上抜ける格好となり、週末7日には前記のレジスタンスラインをもクリアに上抜ける展開となりました。さらに、昨日(11日)は一時114.50円処まで上値を伸ばし、5月高値を上抜ける場面もありました。こうしたことにより、当面のドル/円には一段の上値余地が見込めるものと思われます。

当面のドル/円にとって一つの上値の目安となり得るのは、やはり重要な心理的節目でもある115円処と言えるでしょう。実のところ、同水準は4月安値と5月高値、6月安値を元に弾き出される「N計算値」とも一致するもので、また年初来、何かと意識されてきた水準でもあります。仮に、この115円処まですんなり上値を伸ばす展開となれば、次には3月高値の115.51円が視野に入ってくるようになるものと思われます。

本日(12日)のドル/円は、足下で113円台半ばあたりまで一旦調整する展開となっていますが、これは昨日のNY時間にトランプ米大統領の長男(トランプJr.)が、ロシアゲート疑惑に絡むメールを公開したことに伴う混乱が多少なり尾を引いていることと、本日のNY時間にイエレンFRB議長の議会証言が予定されていることで、全体に様子見ムードが強まっていることなどが主な原因であると見られます。

トランプJr.の話題については、あくまで一過性のものと割り切ればよいでしょうし、イエレン議長の議会証言については、とりあえず事前にポジション整理を進める向きもあるものの、その内容は市場コンセンサスよりも"ややタカ派寄り"のものになると個人的には見ています。つまり、議会証言の内容が伝わるや、市場ではあらためてドルを買い直す動きが見られるようになるのではないかと考えるのです。

周知のとおり、先週7日に発表された6月の米雇用統計では非農業部門雇用者数(NFP)の伸びが予想を上回ったものの、失業率は若干上昇、平均時給の伸びは予想に届かずという結果になりました。この期に及んでは(ほぼ完全雇用の状態にあるからには)、もはやNFPの伸び自体にあまり市場の関心は向かわないものと思われます。失業率が若干上昇したのは労働参加率がアップしたことによるものと市場は理解できているでしょうし、平均時給の伸びに関しては「むしろ、今後に期待」ということになると見ます。

前回の本欄で「興味深い」と述べた5月の『米求人・労働異動調査』が昨日発表され、求人は566.6万件、採用は547.2万件、(自発的)離職は322.1万件という結果になりました。この結果から得られるイメージは、「ようやく採用が少し増え始め、そのぶん求人が少し落ち着く一方で、自発的な離職は一段と増加傾向を強めている」というものです。これは、おそらく「雇われる側の求める条件」に対して、雇う(企業)側が少しずつ歩み寄ってきていることの表れであると見られます。

つまり、ようやく足下で「賃上げ」や「正規雇用比率の引き上げ」などの動きが見られるようになってきているということで、これは一定のタイムラグをもって、いずれ消費や物価の水準を大きく引き上げることにつながるものと思われます。今の米当局が"ややタカ派寄り"であるとすれば、そうした将来を見込んでいるが故ではないかと思われます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役