前回更新分の本欄では、ユーロ/ドルの当面の上値の目安について「1.1300ドル処が大方の考える当座の上値目標なら、同水準近辺に到達した後、そこで当座の目標達成感が拡がって一旦は調整局面入りするという可能性も」などと述べました。

今年2月22日安値から3月27日高値までの値上がり幅を3月27日高値に加算して弾き出される「E計算値」も1.1300ドルあたりで、実際に先週のユーロ/ドルは23日に一時1.1268ドルまで上値を伸ばした後、反落して徐々に上値を切り下げる展開となっています。

4月半ば以降、ユーロ/ドルが急速に上値を伸ばすこととなったのは、周知の通り、仏大統領選において中道派のマクロン氏が勝利する方向へと流れが傾き、実際に同氏が勝利したことで、以前から懸念されていた欧州での極端なポピュリズムが台頭するとの懸念が払しょくされたことが一つ。加えて、欧州政治が安定化する方向へ向かえば、いずれ欧州中央銀行(ECB)が金融緩和の「出口」に向けた協議を本格化するとの観測が市場で強まったこともユーロ高の一因となりました。

筆者は、個人的に市場におけるECBの「出口」観測は過度に期待が先行しているとの感触をずっと抱き続けてきました。よって、いずれユーロ高の流れも一服し、一定の調整を交える局面を迎えると考えてきました。

実際に一昨日(29日)、ブリュッセルで行われた欧州議会の経済金融委員会においてECBのドラギ総裁は「フォワードガイダンスを含め金融政策による異例な規模の支援がなお必要だ」、「インフレ率が持続的かつ自律的に当中銀の中期目標へと収斂するにはなお不十分だ」などと証言しています。6月8日にECB理事会を控えたこの時期の発言だけに、これは重く受け止める必要があるものと思われます。

結果、ユーロ/ドルは一時1.1109ドルまで大きく値下がりする場面を垣間見ることとなりましたが、昨日(30日)の欧州時間入り後には再び1.1200ドル近辺まで値を戻す場面が見られました。それは、一部通信社がECB当局筋の話として「ECBは緩和バイアスを後退させる」と報じたことが主因でした。はてさて、このECB当局筋の話と先のドラギ総裁による証言のどちらにより信ぴょう性があるかと言えば、その答えは自明でしょう。

まして、目下の市場ではギリシャ危機再燃の恐れが取り沙汰され始めています。目下のところ「ユーロ圏」はギリシャへの融資再開について結論を先延ばししており、6月15日に行われるユーロ圏財務相会合でギリシャ追加支援の合意がなされなければ、7月中旬にもギリシャ国債がデフォルト(債務不履行)になる恐れがあるというのです。

また、イタリアの主要政党は昨日(30日)、上下院の選挙法の改正案に大筋で合意しました。各党は7月上旬までに議会で改正選挙法を通過させる意向で、結果的に早ければ9月下旬にも総選挙が行われる可能性が高まっています。総選挙が行われるとなれば、ポピュリスト政党の「五つ星運動」が躍進する可能性もあり、そうなれば欧州政治は再び不安定化する可能性もあると見られます。

6月には仏国民議会選挙も控えており、ユーロ圏が数多の課題を抱えるなかにあってECBがそう易々と「金融政策による異例な規模の支援」の手を引くことができるのかという点も考慮したうえで、今後のユーロと向き合って行くことが重要でしょう。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役