トランプ次期米大統領の経済改革に対する期待はなおも冷めやらず、昨日(12月13日)も米株市場では主要3指数が揃って史上最高値を更新する展開となりました。NYダウ平均に至っては、もはや2万ドルの大台乗せ目前という状況で、米大統領選前とは市場のムードも様変わりしています。

筆者は、本欄の8月10日更新分において『世界的な長期停滞の悲観論はいずれ覆される!?』と銘打ち、そのなかで「いたずらに先行きを悲観し過ぎることは慎みたい」と述べました。そして、その根拠を「近年、米国の財政赤字は急速に縮小してきており、新政権発足を機に大胆な財政出動に踏み切る素地はすでに整っている」という点に求めました。実際、いま足下では来年1月の米新政権始動後における大型減税と大規模な財政出動などに対する期待が大いに盛り上がっています。

よって、当面は中期的にドル強気のトレンドが継続するものと思われるわけですが、ここでもう一歩先に思いを巡らせておきたいと考えます。それは、実際に米国の成長が加速し始め、トランプ氏が掲げる3.5~4.0%程度の成長が実現するとして、結果的に「世界的な長期停滞の悲観論が覆された」とき、あらためて注目を集めるのはどこの国・地域で、どの通貨なのかということです。

筆者は、個人的に「それは豪州であり、豪ドルであろう」と考えます。周知のとおり、豪ドルという通貨は世界全体の政治・経済情勢、景気動向などの行方に非常に敏感であることで知られています。その実、下図で見てもわかるとおり、豪ドル/円は「世界的な長期停滞の悲観論」を反映するかのごとく、米大統領選前まで長らく下降チャネル内(2本の橙色点線で挟まれた領域)での推移を続けていました。

そんな豪ドル/円の値動きが、米大統領選が行われた週(11月7日から始まる週)を境にして、わかりやすく変化しました。まず、その週の少し前あたりから豪ドル/円は31週移動平均線(31週線)を上抜け、米大統領選が行われた週には前述した下降チャネルの上辺を上抜ける動きを見せました。ときを同じくして、週足の遅行線が26週前の週足ロウソクが位置していたところを上抜けたことも見逃せません。

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その2週後には62週移動平均線(62週線)をも上抜ける展開となり、同時に31週線は上向き、62週線は横向きになっています。そして、ついに先週の週足は一目均衡表の週足雲上限を終値で上抜けることとなりました。週足「雲」よりも上方に位置するようになるのは、2015年1月以来約2年ぶりのことであり、それだけでもチャートフェイスから受ける印象は大きく変わります。

そして一昨日(12月12日)、豪ドル/円は一時86.61円まで上値を伸ばす展開となり、今年の年初から4月下旬にかけて上値を押さえ続けた水準(=86円台半ば前後)に顔合わせすることとなったのです。同水準は明らかに一つの重要な節目であり、これをクリアに上抜ければ、そこからは一段の上値余地が拡がりやすくなるものと思われます。重要な節目であるだけに、そこは一旦上げ渋る展開となる可能性もありますが、今後の行方を想定するうえでカギとなる節目でもあり、大いに注目しておきたいところです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役