みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は徐々に力強さを取り戻しているような印象です。先月末からゆっくりと上昇基調を辿ってきましたが、下値は着実に堅めつつあるように思えます。振り返れば、株価の低迷は2月より始まりました。先日発表された1-3月期のGDPは速報ベースでマイナス成長となったのですが、どうやら株価はしっかりとその調整を反映していたということなのでしょう。貿易摩擦や地政学リスクなどの不安定要因は多く残っていますが、株式市場はかなりその影響もまた織り込んできているようにも思えます。当面は強気のスタンスで株式市場を見て行きたいと考えています。
さて、今回は「RPA」をテーマに採り上げたいと思います。RPAとは、Robotic Process Automationの略で、様々な間接業務(経理や管理)の自動化技術と理解してよいでしょう。企業における本社スタッフの業務を自動的に処理してくれるシステムとも云えるかもしれません。本社業務には、経理処理や給与計算、顧客管理やデータベースの構築更新など、一般に繰り返しの多い作業が含まれています。これらを「ロボットの導入によって」省人化し、スタッフにはより生産性の高い分野に注力してもらおうというのが、RPAの主たる目的となります。ここでいうロボットとは、工場などの生産現場で既に活躍しているようなものではなく、システムと考えて差し支えありません。管理業務では基本的なマクロプログラムによる自動化が現時点では主流ですが、RPAはさらにそれを高度にし、複数のアプリケーションの横断的管理やパターン認識に基づいた自己判断もある程度できるようなシステムまでを実現することになります。ちなみに、最終的にはビッグデータやAIを活用してより高度化されるとの観測がなされていますが、それらは「RPA」をさらに進化させた高度な概念という位置づけとなります。
RPAに注目が集まってきたのは、まず、本社管理機能のスリム化が求められ始めたという背景があります。既に生産現場は省人・省力・効率化が浸透していますが、管理部門の省力・効率化はそれに比べると遅々としたものでした。よく目にする「肥大化した本社機能」などの表現は、現場と本社の効率性の違いを端的に示している好例と云っても過言ではないでしょう。RPAはそのギャップを埋める一つの手段と位置付けられるのです。特に、人手不足に悩む日本の企業では管理効率化とそれに伴う人材の有効活用は喫緊の課題となっています。次に、企業サイドでもこういった管理機能の外注化を既に始めていたため、RPA導入への技術的・心理的抵抗が大幅に低下しているという点も重要です。そして、技術的にはさまざまなアプリケーションがクラウドで供給されるようになり、その連動へのハードルが下がったことが挙げられるでしょう。AIに繋がるようなパターン認識などに関する技術革新があったことも無視できません。時代の流れはRPAへの追い風となっているように思えます。
では、RPAというテーマを株式投資にどう活かすか、です。単純に考えれば、RPAシステムの開発会社やクラウド商材の提供会社ということになるでしょう。しかし、やはりそれではストレート過ぎてあまり面白くありません。もう少し捻って考えたいと思います。筆者は、レジャー関連や自己啓発関連に注目したいと思っています。RPAが浸透すれば、スタッフの労働時間は明らかに減少するはずです。実際には、より生産性の高い分野に労力をシフトさせることになるため、実質的な労働時間は実は変わらないかもしれません。それでも、単純作業から創意工夫を求められる業務の増加は労働意欲の向上に繋がり、それは実質的にさらなる業務効率化を生むことになると予想します。結果として、これまで捻出できなかった「自分の時間」を確保できるスタッフはどんどん増えてくるのではないでしょうか。人手不足の現状とはちょっと逆行するようですが、「余った時間をどう使うか」こそが、こういった省力化テーマの「裏」テーマになるのだと筆者は考えています。レジャー関連や自己啓発関連に注目するのは、そのためです。
「人は余った時間をどう使うのか」は難しい問題です。観劇やスポーツといった「こと」消費、自己研鑽や興味ある文化・分野への勉強などが筆者の予測となりますが、他にももっと使い方はあるでしょう。ちなみに、奴隷制度を用いていた古代ギリシャでは、労働を奴隷に任せた結果、空いた時間を使って哲学が生まれました。現代社会において奴隷はあり得ないですが、自動化システムが労働を担ってくれはじめるとすれば、当時と似たような状況が生まれるとも位置付けられます。それらが新たな「哲学」を現代に生じさせる土台になっていくかもしれない、と思えばそれもまた面白いところでしょう。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。