みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は乱高下が続いています。とはいえ、株価の上値は徐々に重くなってきており、日増しに調整色が増してきた印象です。国内では公文書の書き換え問題が政権を揺るがすマグニチュードとなってきた一方、国際情勢も米国による保護貿易政策の発動など、株式市場には逆風となるニュースが相次ぐ状況となっています。ここにきて円高傾向も定着しつつあり、これらが日本企業の業績やインバウンド消費に影響してくるリスクも急浮上してきています。依然として日柄調整局面と割り切るべき状況継続と、筆者は見ています。

さて、今回は「引越」をテーマに採り上げたいと思います。現代人が生きて行くうえで、ほとんどの方は何度か経験せざるを得ないのが引越しです。特に、進学、就職、転勤が重なる年度替わりは、慌ただしく引越しをして新しい土地で新生活を、という方も少なくないでしょう。実際、この時期はまさに引越しのピークに当たり、年間総引越し件数の約30%が3~4月の2ヶ月に集中している、という統計もあります。一方、閑散期はその直前となる11~1月の3ヶ月で、総引越し件数に占める割合は約20%に過ぎません。1ヶ月当たりに換算すると、3~4月の件数は閑散期の倍以上という計算になります。換言すれば、引越し業者は短期間のこの変化に臨機応変に対応しなければならないのです。これまでであれば、引越し業者が社員として抱える人員は閑散期を一定の基準に置き、繁忙期はアルバイトなど短期の雇用で対応するというのが通常でした。筆者も学生時代、春先に引越しのバイトを行った経験があります。

しかし、人手不足が深刻化する中、さらにより丁寧な引越し実務が追求される中、引越し業者としてはアルバイトではなく正社員を、あるいはよく訓練されたアルバイトを確保していく必要性は日々高まっていると想像されます。その結果、特に繁忙期となる春先は自ずと労働需給が逼迫し、現在はかなり引越料金が高騰しているようです。予定していた日程に引越し手配が間に合わず、新生活のスタートが遅れてしまうケースも少なからずあるように思われます。人手不足が継続し、かつ新生活が新年度と共に始まるという状況に変化がないとすれば、この引越し問題は今後さらに継続する可能性があります。これらに如何に対応していくかは、日常の業務・生活を遂行するうえで徐々に重要な問題となっていくのかもしれません。

この問題の解決・緩和には、①人手を充当するか、②新生活の年度替わり集中を分散させるか、③引越し負担そのものを軽減させるか、の3つしか手はありません。ただし、人手不足が構造的な問題である以上、①はあまり現実的な案とは思えません。一方、②の年度替わり集中の分散化は、最も合理的で抜本的な対策と云えるでしょう。タイミングを分散できれば、引越しの発生件数が年間で平準化されることになります。当然、利用者にとっては使い勝手が増すことに繋がるうえ、引越し業者としても人員稼働率の安定化を図ることもできます。既に秋(9月)入学を制度導入している大学も150校を超えており、入学という視点ではその萌芽を確かに認めることができます。企業側からもコスト抑制や従業員への負荷軽減の観点から、年度末の一斉異動を分散させようとする動きが今後出て来るのではないか、と想像します。とはいえ、休日取得の分散化が長く謳われはしているものの、恐らくは心理的な抵抗から、依然としてGW(ゴールデンウィーク)やお盆・正月には「民族大移動」が発生しているという現実もあります。筆者は、②のシナリオは合理的ながら、新生活=桜の季節という固定概念の打破は難しく、上記の問題もせいぜい緩和程度のインパクトしか現実的には期待できないのではないか、と予想します。

とすれば、③が最も現実的なシナリオになるでしょう。引越し負担の軽減とは、具体的には引越し荷物の軽減とお考えください。移動させる荷物が減れば、引越し業者の負担もその分減少し、別の引越しにその余力を向かわせることができます。利用者にとっても引越し料金を抑制できるというメリットもあるでしょう。新生活の分散化も必要なくなるため、心理的な抵抗感もほぼありません。では、荷物を少なくして、どうやって新生活を送るのでしょうか。筆者はレンタルサービスに注目します。実際に、今や家具や家電のレンタルサービスビジネスも増えつつあり、数年前の統計ですが、既にそれらの市場規模は500億円を超えてきたとの報告もあります。かさばる家電や家具を新拠点のレンタルで対応できれば、おそらく荷物は激減するのではないでしょうか。これらは「モノを持たない」という今の時代の流れにも合致していると思えます。居住期間のある程度読める単身赴任や学生であれば、レンタルを活用したいと考える向きも少なくないでしょう。家財道具一切を持って引越しという風景は、今後徐々に減少していくのではないかと想像しています。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。