英国において、6月23日にEUからの離脱を決める国民投票が行われ、離脱を支持する人々が過半数を占める結果となった。英国がEUから離脱する際にはEU基本条約50条に基づく正式な離脱手続きが必要となるが、英国はEU側に対してまだ離脱通知を行っていない。各種報道では来年以降に行われるといわれており、今後の先行きは不透明な状況となっている。そこで、英国経済の状況について今一度確認したい。
8月4日に行われたイングランド銀行の金融政策決定会合において、追加緩和の実施が決められた。主な内容は①政策金利の0.5%から0.25%への引き下げ、②銀行などに対する新たな金融スキームの導入、③英国経済に貢献する企業の社債購入(最大100億ポンド購入)、④国債購入枠の600億ポンド増額、すなわちイングランド銀行による英国債の国債購入枠を4,350億ポンドに設定、である。
イングランド銀行は7月の金融政策決定会合の段階で追加緩和を行わなかった。背景には、各種統計で英国のEU離脱による明確な影響が発表されていなかったことがある。今回、8月の金融政策決定会合とあわせて、イングランド銀行はインフレーションレポートを発表した。その中で英国経済に対する不確実性の上昇が示された。特に英国における住宅市場の先行指数及び消費者信頼感指数が落ち込んでおり、今回の追加緩和は今後起こるであろう経済の悪化に対して先手を打ったと言える。
詳細についてみると、住宅市場では一部不動産ファンドの解約停止が発生し、RICS(Royal Institution of Chartered Surveyors)による住宅市場の先行指標が悪化した。価格予想に関しては▲27となり、2011年以来の大きな落ち込みであった。売上高予想に関しては▲26となり、過去最低の水準であった。7月29日に発表されたGfK消費者信頼感指数も、前回6月と比較して、11ポイントの下落となっている。この下落幅は1990年3月以来26年ぶりの落ち幅で、悲観的な見方が広がっている。

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続いて今後の英国の経済成長率やCPIなどの予測をインフレーションレポートから見ていきたい。実質GDP成長率は、英国のEU離脱による影響により5月に発表された前回の予測計数から、下方修正されている。失業率も今後悪化するとされている。

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これらのことから英国経済は、短期的に民間セクターの債務が積みあがってくる形での金融危機、つまりリーマンショック型の金融危機が発生して悪影響を受けるというよりも、消費者心理や住宅市場の悪化などが個人消費をはじめとする実体経済へと徐々に波及し、英国経済全体が鈍化していくという流れになりそうだ。これから英国の国民投票後の各種統計が発表されるので、これまで堅調に推移してきた個人消費などがどれだけ減少するかに注視する必要があるだろう。

コラム執筆:佐藤 洋介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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