日本企業の海外市場からの稼ぎ方が変わってきている。かつて日本は貿易立国として長い間貿易黒字を計上してきたが、その勢いは弱まっており、東日本大震災後に化石燃料の輸入量が増えたことなどから、2011年から2015年まで年ベースで赤字となった。代わりに拡大しているのは、海外への投資から得られる利子・配当などの第一次所得収支である。第一次所得収支は以前は貿易収支より小さかったが、2005年に逆転し、その後も増加傾向が続いている(図表1)。
この背景にあるのは、企業の海外における事業活動の拡大である。製造業を中心にグローバルなサプライチェーンの構築が進み、製造業の海外生産比率は1996年の10.4%から2013年は22.9%まで高まった。これに伴い、第一次所得収支の主要な構成要素の一つである直接投資収益は1996年の1.5兆円から2015年の8兆円越えまで大きく増加し、過去最高を更新している。第一次所得収支の伸びは、こうした海外事業からの収益還元が着実に進展していることを示すものである(図表2)。
このような中で、わが国としては、海外への投資の拡大~収益の還元という流れをより確かなものにし、海外の成長のダイナミズムを着実にわが国の成長につなげていくことが重要になる。その際に大きな役割を果たすと期待されるのが「投資協定」である。投資協定とは、投資を行う上での様々な障壁の排除や、実施した投資の保護などを目的とする国家間の取り決めである。投資協定により海外で事業を行う上でのリスクが軽減されれば、企業はグローバルな事業展開を進めやすくなる。
現在、日本は40余りの投資協定(投資章のあるEPAを含む)を締結・署名しているが、ドイツ、フランス、英国、中国ではその数が100を超えるなど、日本は大きく遅れを取っている。他国に劣後せず競争力を高めるためにも、投資協定の締結国を増やしていく必要がある。投資協定の締結促進は、政府が2013年6月に発表した「日本再興戦略」でも目標に掲げられており、その実現が求められるところである。
今後、日本企業のビジネスのフィールドが一段と広がりを見せ、アフリカなど新たな市場にも拡大していくことは間違いない。投資協定の出番が増えるということだ。しかし、例えばアフリカについては投資協定がまだ3カ国としか締結(合意含む)されていないなど、締結国を増やす余地は極めて大きい。また、TPPやRCEPなどのメガFTAにより広域をカバーする投資ルールが整備されることの重要性も高まってきている。投資協定が戦略的に拡充されていき、わが国企業のグローバルな事業活動が一層勢いを増すことを期待したい。
コラム執筆:金子 哲哉/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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