アルゼンチンでは、昨年12月、経済改革を公約に当選した保守派のマクリ氏が新大統領に就任しました。それまでは、12年間に渡り、キルチネル元大統領及びその妻であるフェルナンデス前大統領による中道左派が政権を担ってきましたが、ポピュリズムや保護主義的な政策が続いた結果、物価の高騰、通貨の下落、財政赤字等、アルゼンチン経済には様々な歪みが生じています。GDP成長率は2012年以降、低迷しており、IMFによると2015年は+0.4%に留まりました。今回の選挙では有権者が市場経済主義への移行を選択し、政権交代が実現したことになります。

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マクリ大統領は現状を打破すべく、就任直後から経済改革に着手しています。為替政策では12月16日、変動相場制への移行及び資本規制の廃止を発表しました。この結果、通貨ペソの公式レートは発表前の9.8ペソ/㌦から約4割下落し、直近では13.5ペソ/㌦(1月13日)で推移しています。ペソ安によるインフレの加速が心配されるものの、為替介入が不要となり、心配されてきた外貨準備の減少を食い止める効果が期待されます。また、農産物に課されていた輸出税の見直しも行ないました。トウモロコシ、小麦、牛肉等の輸出税を廃止し、大豆については35%から30%に削減しています。これまで輸出税の存在が農家の生産意欲の低下につながっていましたが、今後は重要な外貨獲得源である穀物の生産回復が期待されます。

一方、まだ多くの難題が待ち構えています。そのひとつが、国際資本市場への復帰に不可欠な海外投資家との和解です。アルゼンチンは2001年にデフォルトを経験し、その後、債券交換に応じなかった「ホールドアウト債権者」と呼ばれる一部の投資家から訴訟を起こされ、敗訴しました。この結果、債券交換に応じた債権者に対する支払いの前にホールドアウト債権者への債務返済を要求され、支払能力があるにも関わらず、2014年には再びデフォルトに追い込まれました。この問題が解決するまで海外からの資金調達の道は閉ざされており、新政権は早期にホールドアウト債権者との再協議を行う意向を表明しています。

更に、統計の信頼性の回復も喫緊の課題です。前政権では、GDPや物価等の経済統計が操作され、国際基準に適合していないとしてIMFより改善勧告を受けています。実際、2015年10月の政府発表の消費者物価上昇率は前年比+14.3%でしたが、民間予測の+25%とは10%以上の乖離が生じています。信頼できる経済統計がなければ外国からの投資が期待できないばかりでなく、経済の実態を把握できず、適切な経済政策の実施もままなりません。このため、マクリ政権は統計の発表を一時中断し、数ヶ月かけて改善を行なう計画です。

この様に、新政権下の改革はまだ始まったばかりです。成果が現れるまでには時間がかかるものもあり、金融・財政の緊縮政策の推進により、当初は大きな痛みを伴うことにもなります。しかし、アルゼンチンは、米国、ブラジルに次ぐ穀物の輸出大国であり、シェール・ガスでは世界第2位の埋蔵量を持つ等、エネルギー資源にも恵まれています。足元では新興国の減速懸念が拡大していますが、中長期的な成長が期待される有望国として浮上しつつあるアルゼンチンには注目が集まりそうです。

コラム執筆:井上 祐介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 

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