1. 国内設備投資比率に反転の動き

2014年以降、製造業の国内回帰とみられる動きが少しずつ見られるようになりました。製造業の国内法人と海外現地法人の設備投資の動向を見ると、主に円高の修正や中国等での生産コスト上昇を背景に、2010年頃より減少基調が続いていた国内設備投資比率に反転の動きが見られます(図表1)。国内経済の活性化のためには国内への設備投資が拡大することが求められますが、今後国内の設備投資(比率)は本格的な増加に転じるのでしょうか。

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2. 経産省による設備投資の拡大要請?

2015年12月18日付の日経新聞によれば、経産省が各業界に設備投資の拡大要請を2015年12月末から2016年1月にかけて行っていくとのことです。昨年11月までに行われた官民対話の場において、経団連が法人減税をはじめとする環境整備を条件に、10兆円の設備投資積み増しが可能であると表明したことを受けて上記の要請に至ったものです。
上述の通り、国内経済の活性化に向けて国内への設備投資は必要なものではあるものの、本来民間企業が市場原理に基づいて独自に判断して実行する筈の設備投資に関して、政府が「要請」を行うということ自体、そのレベルがどうであれ違和感を持たざるをえません。また、円安頼みの国内回帰では円高時のリスクを伴いますし、その場しのぎ的な対応は一時的な設備投資の増加や先食いに終わる可能性があります。民間企業が自らの判断で国内に設備投資を行いたくなるような基礎的な環境が早期に整備されない限り、本格的な国内回帰には至らない、あるいは回帰しても一時的、限定的なものになってしまうのではないでしょうか。

3.国内回帰のための要件は?

政府が2016年度の法人減税を決定したことは高く評価されるべきことであると考えます。しかし、企業の海外投資決定におけるポイントを鑑みると、税制は最低限の条件の一つにしか過ぎないのかもしれません。実際に海外投資を行った企業に対して投資決定した際のポイントを聞いた調査(図表2)では、「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる」と回答した企業の割合が約7割と最も高い比率となっています。これに続くのが、「納入先を含む、他の日系企業の進出実績がある」、「進出先近隣三国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」といずれも製品の需要に関連するものが上位を占め、税制等の優遇措置に関するものは1割程度しかありません。また、「国内回帰を行わない理由」を尋ねた調査(図表3)でも「今後も海外での需要が見込まれるため」がやはり75%を占めています。
企業にとってコストはもちろん大切ですが、需要が見込めない場所での投資はやはり難しそうです。安定した投資先になるためには、安定した消費地になることが必要といえます。

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4. 日本の消費動向

日本の消費動向に目を向けると、国内の家計最終消費支出(実質)はこの20年間、前年比▲1%~+3%の範囲で推移し、20%弱増加しています(図表4)。

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家計消費支出に関して年齢階級毎の比較を行うと、他の年齢階級と比較して50代の支出が多いことが分かります。現在、40代の団塊ジュニア世代が50代になるまで数年の猶予があり、人口の減少(2010年をピークに減少)と同時に消費支出も減少、というものではありませんが、さほど猶予は残されていません。

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5. 短期的施策だけでなく中長期的視点に立った施策を

このように、本邦企業が国内投資を拡大するためには、日本国内における景気変動に依存しない安定した需要の増加、即ち人口の増加が求められます。アベノミクスの「新・三本の矢」の中でも、希望出生率1.8を2020年代初頭に実現するという目標が掲げられました。これについては実現不可能との批判もありますが、経済基盤を維持する上で、団塊ジュニアが消費支出を支えているうちに、こうした目標を達成することは必須であると筆者は考えます。
長期安定政権となった今、短期的施策はもちろんのこと、中長期的な視点に立った施策を確実に実行し、経済の好循環に繋げることが強く望まれます。

コラム執筆:近内 健/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 

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