2013年は、米国では、サブプライム・ローンの破綻を背景とする家計のバランスシート調整を乗り越えて、景気が持続的に上向き始め、量的金融緩和からの出口が模索された1年となった。一方、新興国では、2000年代に入り中国を頂点にBRICSが相次いでテイクオフ(離陸期:持続的成長の開始)を果たし、途上国全体が「新興国」と期待されるようになってから初めて、新興国からの景気・為替の先行き不安が惹起された1年となった。

2000年代に入ってからの新興国経済は、先進国の金融緩和を背景とした国際商品価格上昇と直接投資ブームにより、交易条件や経常・国際収支が改善。BRICSの台頭を背景とした需要の拡大期待と供給のボトルネック緩和により、成長加速と物価安定の両立も果たした。08年の欧米発のリーマンショックでは、新興国経済への悪影響は避けられないとみられたものの、09~11年には世界経済が新興国から急回復をみせ、新興国が牽引役となる時代が本格到来したと思われた。12年には成長率が低下したが、11年までの急回復の反動と欧米での金融不安再燃が主因とみられ、新興国の潜在性は相変わらず高いと考えられていた。中でもアジアでは、中国が2桁成長から減速していったものの、ASEANが加速したため、ASEANブームさえ起こった。

13年に入って先行き不安が引き起こされたのは、主に3つの理由がある。
まず、米国が量的金融緩和からの出口を模索する中で起きた新興国からのマネー流出が、新興国経済の質の問題を再現させたことである。代表的な経常収支赤字国であるブラジル、インドネシア、インド、トルコ、南アフリカが「フラジャイル5」と呼ばれ、通貨の下落→インフレ懸念→金融引き締め→成長の押し下げに見舞われたのは、これらの国の成長が先進国からのマネーによってファイナンスされていたという弱点を再認識させたからにほかならない。

次に、ここ数年の欧米の経済健全化への取り組みが新興国のそれとのトレードオフをはらんでいたということである。2000年代に入ってからの新興国のテイクオフが欧米の財政・金融の拡張に依拠していたこと裏返しなのだが、ここ数年の欧米の財政緊縮は、需要の縮小や国際商品価格の押し下げを通して、新興国の経常収支を悪化させた。また、金融健全化は、欧米の投資行動がリスク回避的になることを通して、新興国の為替や株価を不安定にした。

最後に、世界経済は、主要先進国を中心とした成長から、幅広い国による成長に転換してきているが、各国間の調整と協調の枠組みが模索中であるということである。2008年以降、年複数回開かれるようになったG20財務大臣・中央銀行総裁会議は、参加者が多すぎて、実質的な議論は先進国に決められてしまっている。新興国は、先進国と対等ではない。
2月22日にオーストラリアで開かれたG20では、米国の量的緩和縮小や新興国の通貨不安が議論され、一部の新興国からは、通貨不安のきっかけとなった米国の量的緩和縮小に批判の声も上がったが、多くの新興国は、対立は不安を煽りかねないと議論を自制した。
新興国の先行き不安には、実体経済の先進国への従属は幾分改善しつつも、金融や政策協調でなお従属しているという新興国の厳しい現実があり、先進国、新興国双方の対応不足や政策協調に対する困難により、今後も繰り返し引き起こされる可能性が高い。

コラム執筆:鈴木 貴元/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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