近年、資源国による資源ナショナリズムの動きが活発化しています。世界的なコンサルタント会社であるErnst & Young社は、資源ナショナリズムを、2011年、2012年の鉱業分野ビジネスリスクの第1位にランクしています。2008年時点では第8位でしたので、ビジネスリスクとしての認識が急激に高まっているようです。(図1)

(図1) 鉱業分野の10大リスクの変遷 (Ernst & Young社)

(出所)Ernst & Young社「The business risk report Mining and metals」各年版を元に丸紅経済研究所作成

資源ナショナリズムには様々な形態がありますが、一般的に自国資源に対する利益を強く主張する動きを指します。(「資源ナショナリズムの分類」) 2011年全体をみると、少なくとも20ヵ国で資源ナショナリズムと呼べる動きが起こっています。地域は世界全体に広がっていますが、特に南米やアフリカが多く、対象の資源は石炭・鉄鉱石・銅といったメジャーな鉱物からレアメタルまで多岐に亘っています。2012年の資源ナショナリズムの動きで目立ったものとしては、インドネシアによる未加工鉱物の輸出制限(5月)、アルゼンチン政府によるスペイン系石油企業YPFの国有化(5月)、豪州の資源課税(MRRT)の付加(7月施行)、などでしょうか。いずれも資源開発企業にとってはプロジェクトの遂行や経営に係る重大な問題につながりかねません。

「資源ナショナリズムの分類」

【1】 国有化および外資制限

【2】 高付加価値化義務

【3】 輸出数量制限の設定

【4】 資源国資本(政府あるいは現地企業)の参加

【5】 国営企業設置や国営企業による炭鉱活動開始

【6】 鉱業関連税制あるいはロイヤルティの増加

(出所)(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構「資源ナショナリズムの現状と資源開発」2012.3.26

今、なぜ資源ナショナリズムが高まっているのでしょうか。過去を振り返ってみると、資源ナショナリズムの高揚・沈静化と資源価格には、おおむね正の関係があるようです。
最初の世界的な資源ナショナリズムの高揚は、1960年~1970年代でしょう。これは、第一次資源ナショナリズムと呼ばれ、天然資源に恵まれながらも先進国の原料供給地という位置づけであった新興国が、先進国による資源支配からの脱却を目指したものです。

彼らの主張は1962年の国連による「天然の富と資源に対する恒久主権」の決議につながり、資源保有国の国家の発展と福祉のために行使されるべき天然資源に対する恒久主権が国連において規定されました。そして、1973年の第一次オイルショックによる石油価格の高騰は、石油輸出国機構(OPEC)、OAPEC(アラブ石油輸出国機構)という資源を軸にした共同体の存在や、資源が強力な戦略物資になりえることを、国際社会に知らしめました。その後、石油以外の資源においても複数の生産国同盟の誕生が相次ぎ、第一次ナショナリズムは高揚期を迎えました。

しかし、第一次資源ナショナリズムの高揚は、資源価格の低迷とともに徐々に沈静化して行きました。1970年代に急激に上昇した資源価格は、供給面で開発を促すとともに、需要面では代替や効率化を促進させました。その結果、多くの資源で供給過剰となり、1980年~1990年代、資源価格は低迷期を迎えました。資源ナショナリズムによる外資への規制や排除は、外資の持つ資金と開発技術の撤退につながります。需要超過で資源価格が高い場合は、開発効率を犠牲にしても資源国の利益確保は可能ですが、供給過剰の場合は競争力を失います。資源価格の低迷期において、OPEC以外の生産国同盟は影響力を失い、多くは解散しました。そして資源国においては、再び外資へ門戸を一部開放し、経済開発発展路線を選択する動きが強まっていきました。

そして新興国の需要増加によって2000年代半ばから急激に上昇した資源価格は、現在の第二次資源ナショナリズムと言うべき状況を生み出しました。しかし、第一次資源ナショナリズムが、先進国による資源支配からの脱却やいわゆる南北格差是正のための国家主権の確立に焦点が当たっていたのに対して、第二次資源ナショナリズムは、利潤の追求や政治的利用の意味合いがより強くなっているようです。特に多く見られるロイヤルティの強化や超過利益への新規課税の動きは、利潤の追求とともに、所得の再分配という意味においても多分に政治的な動きと言えましょう。尚、第二次資源ナショナリズムには、一般的に中国に代表される資源消費国による政府主導の資源獲得という資源ナショナリズムも含まれます。こちらも、すべてではありませんが、経済合理性から離れた政策的な動きを伴います。

今後、資源ナショナリズムはどのように進むのでしょうか。価格の上昇は、すなわち、希少性の高まりを意味します。資源の希少性が高まれば資源を持つ国が資源から最大限のメリットを得ようとすることは自然であり、資源価格の動向が資源ナショナリズムの行方を左右するといっても良いでしょう。

新興国の中長期的な発展継続が予想される中、資源価格は、一時的な停滞はあるにせよ、2000年代前半のような安価な資源価格への回帰は望み薄と見られます。資源価格の変化が資源をめぐるパワーバランスの変化となり、資源ナショナリズムの高揚・沈静化につながっているとすれば、資源価格が上昇もしくは高止まりする限り、資源ナショナリズムの動きは今後も政治的な意味合いを強めながら継続することが予想されます。ただし、資源国も、判断次第では振り子の逆転現象で自国の利益損失につながることを歴史的に学んでいますので、資源開発企業の資金や技術の完全撤退を招くような強硬な資源ナショナリズムとは姿の違うものになるかもしれません。

コラム執筆:村井美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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