2010年12月、日産自動車から電気自動車「リーフ」が発売された。自動車単体でみれば、動力源がガソリンエンジンから電気モーターに変わっただけだが、画期的なことは、自動車がネットワークに接続されたことだ。

建設機械や医療機械など産業財では、機械個体のオンラインモニタリングは既に実用化されている。リーフでは、充電スポット情報の自動更新、渋滞情報表示など従来からのカーナビ系地図情報サポートに加えて、車から離れた状態でスマートフォンを使って充電状況や航続可能距離を確認したり、充電の開始・終了などの操作やエアコンの遠隔操作なども可能になる。更に日産では、グローバルにEVの走行履歴や充電および電力消費の履歴を管理し、EVの走行情報や充電情報を統計的に蓄積・分析するとしている 。今後、EVとネットワークの組み合わせを前提とした様々なサービスの開発が進むことになろう。

もともと昨今の自動車はITの塊の様なもので、トヨタ自動車のプリウスでは、40個以上の電子制御ユニットを搭載し、製造コストの半分をIT関連部品が占めているとされる。20世紀の大半、自動車は、人が自分の状況判断で操つる機械であったが、今や、その技術は、センサーやビデオカメラ、無線通信等を通じて状況を認知し、判断を行い、運転者に何らかの注意喚起を促す、ないしは、直接自動車をコントロールする、という所に来ている。

走っている自動車が、壁や人型人形の手前で、自律的に停止するテレビCMをご覧になった方も多いだろう。停止するだけではなく、実証実験では、既に自動走行の段階まで来ている。日本では、NEDOらが、3台のトラックの高速道路走行で、後ろ2台の無人運転に成功している。海外では、グーグルが自動走行自動車を開発しており、エンジニアが乗車してのことだが、カリフォルニアの市街走行を含め、昨年10月時点で、既に20万km以上の自動走行を重ねている。

自動車を巡るもう一つの潮流はカーシェアリングだ。日本では、2010年1月時点で、会員数16,000人、車両台数1,300台に過ぎないが、オリックスやマツダレンタカーなど大手の直近の集計を加味すると、昨年中には日本の会員数は5万人を超えたと見られ、急速に拡大を続けている。米国ではRelayRides社など個人間の車の貸し借りを可能にするプラットフォームを提供するベンチャーも出てきている。
こうした自動車の利用は、リアルタイムで自分の近くの利用可能車を検索したり、利用者の認証や走行距離カウント・料金精算など、個々の自動車がネットワーク端末としてアクセス・モニタリング可能となることで、利便性が格段に向上する。ルール違反などがあれば、安全な範囲で遠隔操作による強制停止も想定可能であろう。

いずれにせよ、21世紀に入り、新たな自動車の有り様や、様々な自動車関連サービスの模索が本格化・一部実用化される時期に入ったと言えよう。既存自動車産業のみならず、異業種やベンチャーの参入も一段と活発化しよう。団塊ジュニア世代など現在の若者には自動車を所有することにあまり関心がないと言われるが、彼らがシニア入りする21世紀半ば前後には社会における自動車の有り様が大きく変わっていることは確実だろう。

コラム執筆:猪本有紀/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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