私は上場企業の株主総会の議長を15回したことがあります。これはかなり珍しい経験だと思います。加えて、他の上場企業の株主総会に、社外取締役として壇上に出席したことが10回ほどあり、非上場企業となると議長でも取締役でもほぼ数えるのが不可能なほど株主総会には法的・主体的に参加してきています。私は常に株主との対話というものを強く意識して、大切にしてきました。結果として株主の方々に満足のいくリターンを提供して来られたかとなると、大きな心理的負債があり、もっともっと頑張って結果を出さねばならないと強く思っていますが、株主との対話というプロセスについては、誰よりも考えて大切にし実践してきた自負があります。初めて上場企業株主総会の議長をした時、当時は珍しかった土曜日開催を断行し、ホームページ上に株主提案権の説明まで書きました。

しかし企業と株主の対話の機会は、株主総会だけではありません。平時から、継続的に、様々な形で対話を取っていくことが大切だと思います。この企業と株主の間の対話のことを、エンゲージメントとかスチュワードシップと呼び、現在我が国は、行政、取引所、その他の関係者が力を合わせて、この対話を促進させようとしています。これはとてもいいことです。このエンゲージメントやスチュワードシップの主役は、行政でも取引所でもなく、上場企業と株主です。そして株主は、何も機関投資家だけではなく、個人少数株主・個人投資家も含まれます。いやむしろ、機関投資家の存在はその裏にある個人投資家によって成り立っているので、あらゆる企業の最終実質株主は個人であると考えられ、エンゲージメント、スチュワードシップの主役は企業と個人投資家であるとも云えると思うのです。

個人投資家が企業と対話する方法は、株主総会に出席したり議決権を行使する以外にも、平時から上場企業のIRセクションに問い合わせたり、或いはスチュワードシップを強く実践しようとするファンドに投資するという方法もあります。是非色々な形で、個人の声を企業に投げ掛けていって下さい。それが日本の株式市場・資本市場を良くしていくと信じています。