― 8/29に発表された6月のケース・シラー住宅指数は、前年同期比+5.7%と3年ぶりの大幅上昇となり、過去最高水準に近づいている。需給の逼迫や、低金利が価格上昇を後押ししている。
― そんな中、追加利上げや銀行の融資姿勢厳格化への懸念から、住宅市場の行き過ぎを不安視する声も出始めている。しかし、米国の持ち家比率は歴史的低水準からようやく底打ちし始めたばかりで実需はまだ強そう。
― 更に、賃料や個人所得、他国との比較でも、米国の住宅価格の上昇ペースはさほど不自然ではない。住宅価格動向に加え、金利や銀行の融資姿勢をウォッチする必要はあるが、まだ当面は安定的な上昇が見込めそう。
米国の住宅価格は引き続き絶好調
8/29に発表された6月のケース・シラー住宅指数は、前年同期比+5.8%と、2014年6月以来の大幅上昇となった(図表1)。人気都市は特に高い伸びを保っており、例えば、シアトルでは、前年同期比+13.4%の猛烈な上昇となった。需要の強さに対し、物件在庫が販売件数4ヶ月分しかないという品薄状態が続いており、価格上昇を後押ししている。
在庫不足に加えて住宅価格を支えているのが銀行の貸出である。2016年以降、米国の住宅ローンは順調に増加しており、特に金融緩和が終了した2015年ごろから伸びが顕著になった (図表2)。それでもまだ過去に比べて住宅ローン金利は低位に留まっており(図表3)、金利引き上げが本格化する前にローンを借りようという動きが背景にあるとみられる。
米国の住宅価格は行き過ぎか?
こうした流れを受け、米国の住宅価格は、現在、場所によっては極めて高価になっている。ニューヨーク・マンハッタンのマンション1戸当たりの平均販売価格は、過去最高の220万ドル(=2.4億円)にも上る(17年4~6月)。それでも、販売戸数は、昨年から15%も増加するなど活況を呈している。
このような上昇は行き過ぎなのだろうか?我々は、以下の点等から、現時点では、まだ行き過ぎとは言えないと考えている。
1)低い持ち家比率 金融危機以降、米国の持ち家比率は下落してきており、昨年4月に過去50年間で最低の62.9%まで下落した(図表4)。直近では底打ち感も出ているものの、まだ63%台と歴史的低位に留まっており、住宅に対する潜在需要は高い。
2)家賃、個人所得との比較 米国では、住宅価格の上昇は、平均家賃の上昇率とほぼマッチしている(図表5)。このため日本とは異なり、住宅価格が上昇しても賃貸利回り(物件の賃料収入÷物件価格)はそれほど下落していない。
また、個人所得(名目)と比べても上昇率は極端ではない(図表6)。つまり、まだ米国の住宅価格は、平均的には、個人にとって手が届かない価格になってしまっているわけではない。
3)他国との比較 住宅価格の上昇率を先進諸国で比較すると、米国は特段突出しているわけではない。図表7の通り、各国の住宅価格の上昇率と名目GDP成長率を比較すると、米国は概ねトレンド線上にある。つまり、(他国の住宅価格も行き過ぎている可能性もあるものの)、他国と比べて米国の住宅価格だけが極端に上昇しているわけではない。
今後の注目点
とはいえ、不安材料も出始めている。例えば、米国の住宅ローンの貸出条件は、近年極めて緩かったが、最近徐々に厳格化されつつある(図表8)。前述の貸出金利も、政策金利の上昇とともに上昇する可能性が高い。
万一住宅価格の下落が始まると、危機後は上昇が当たり前となっていただけに、消費センチメントを大いに冷やすだろう。当面その懸念は低いものの、月次の住宅関連指数や、住宅ローン金利、融資担当者調査等をチェックし、住宅価格の動向をウォッチしておきたい。