今日ニューヨークを発ち、帰国します。今回のニューヨークは、少なくとも7年ぶりにしたことがあります。ダウンタウンに行ったのです。2001年9月。例の忌まわしい事件以来、私はダウンタウンを避けていました。

社会人となった最初のほぼ1年間暮らしたのは、WTC(ワールド・トレード・センター)のすぐ麓、凡そ200メートルぐらいしか離れていない所のアパートでした。住所も部屋番号も、良く覚えています。毎朝そこで起き、歩いて会社まで行き、また歩いて帰ってきました。ウォール・ストリートからWTCまでの周辺は、平日の夜や休日も、あちこち動き回っていました。食べ物屋、ビデオ屋、雑貨・衣料店。

マンハッタン島の南の端にあるビルは、1 New York Plaza(1NYP) と云い、私が最初に就職した会社(Salomon Brothers)があった場所で、就職した年にブラック・マンデーが起き、様々なドラマを目撃し、暫くの間OJTで働いた場所です。就職したての頃は隣のビルで研修を受け、その脇にある小さな公園でテイクアウトのランチを食べたものでした。

そこからほんの50メートルぐらいのところに、私が転職した会社(Goldman Sachs)の本社(85 Broad Street-85BS)があり、そこにはもちろん数え切れないほど行きましたし、数ヶ月間滞在して働いたことも2回ほどあります。その時も住んだ場所は、かつて就職時に住んでいた場所の隣か、もう一つ別の場所でしたがやはりWTCのすぐ近くでした。あの周辺は、大学を出てからの12年間の、仕事の面でもプライベートでも、あらゆる思い出のある場所なのです。

しかし7年前の事件以来、私はあの周辺に行くことを避けてきました。一度だけ85BSに行ったことがありますが、その時もWTCの反対側から行き、車の外はなるべく見ないようにし、ビルに入り、ミーティングを終え、またすぐに車に乗り込んで、WTCの方に行かないように急いでその地域を脱出しました。強い思い出があるだけに、あの事件はあまりにもショッキングで、私はその事実を自分の目で見て受け容れることも出来ず、ウォール・ストリートの雰囲気を一杯に吸い込むことも拒否してきたのです。

しかし今回、初めてあの周辺にゆっくりと行きました。1NYPにも行き、そこと85BSの周辺を短時間ですが散歩し、その辺りの店でランチを食べ、かつての思い出の場所も歩いて確認しました。その地域を出てミッドタウンに戻る時、車はかつてのWTCの横の道を通ろうとしましたが、私は拒否もせず、かつて住んでいたアパートを車窓から見、遂にはWTCの跡地もこの目で見ました。動揺はなく、全てを普通に受け止めることが出来ました。

7年。短いような長いような。そう云えば大統領も替わるような。時の流れの中で、人の感情や考えは随分変わるものだと、そう思いました。無理をしないで、随分長い間行かなかったことも良かったのでしょう。ニューヨークのダウンタウンでの思い出は、これからも大切にしていきたいと思います。