産業再生機構が、通算700億円を超える税前利益を残し、4年間の業務を閉じました。斉藤惇さんが社長に就任した会見をテレビで見たことを、今でもよく憶えています。ケネディ大統領の有名なスピーチを引用して、「国に何をして貰うかではなく、国に対して何が出来るかを追求していきたい」と云うようなことを仰られました。ちょっと芝居じみた面もありましたが、正直カッコいいとも思いました。
斉藤惇さんと産業再生機構の実績については、色々な評価があると思いますが、私は、立派な仕事をされたと思っています。今朝の日経新聞、「経済教室」に、斉藤さんの寄稿がありました。3000字を越えると思われる分量の文章の中に、斉藤さんの気持ちが、控えめながらに滲み出ている気がしました。
「どうしたら企業の利益追求が公益に貢献できるか」「失われた十年といわれる破廉恥な歴史の中で、多くの金融機関と事業会社がこの社会的使命を忘れ、失敗の原因が作られたと強く感じる」などの強い言葉も散見されますが、ほとんどは金融的に当たり前のことを書いているに過ぎません。「こうして計算された企業価値評価額を支援企業が返済しうる限度額と考え、これを超える部分の放棄を金融機関に要請した」−当然のことです。「一方、企業再生では、債務超過企業の株主へ還元される価値はゼロであり、残余の企業価値はすべて債権者に返還されるべきとの考えで作業を行った」−財務諸表、株式会社の仕組みをかじったことがあれば、誰に対しても自明な、資本のルールに過ぎません。
しかしこのような金融の常識、当然のことを、延々と説明し続けられるところに、我が国の金融・資本市場問題の根の深さと、そしてこの国の中で金融的に正しいことをする際に要求される、強くてぶれない意志を感ぜずにはいられませんでした。つまり金融・資本市場に関しては、どこか間違った理解が一般に流通しており、それに対しては、時には批判も恐れずに、しかし基本的なことを、きちんと表明し、説明することが大切なのだと、斉藤さんは考えるに到ったのではないでしょうか。私も、資本市場の大先輩を見習っていきたいと思います。