たかがおでん、されどおでん。実につまらない食べ物のような気もしますが、たまに出掛けてしまいます。すました高級おでん店も銀座辺りにはありますが、私にはどうもピンと来ません。年々歳々具には変化ナシ。更にどんな具でも同じ鍋の中で、しかも煮るでもなく単につゆの中で温めるだけ・・・同じつゆで同じ味付けで。こういった食べ物と高級感というものはミスマッチな気がして、こう言っては失礼ですが、銀座風板さんも、銀座風お客さんも、私には少々滑稽に映ってしまいます。
やはりおでんは場末な雰囲気、特に屋台が一番似合います。特にリアカー屋台は、什器や座り方などにも様々な工夫があり、中々興味深いものです。お店なら本郷に好きな所がひとつあります。元来おでんは味噌田楽のように汁気のない形態だったようですが、それをおつゆの中に浮かべる今のスタイルを発明した元祖おでん屋です。創業明治20年。大根も、袋も、この店の発明です。どこまでも素っ気ない味で、何処か拍子抜けする内容や味が、ここの醍醐味です。ちゃんとしたビルの1階なのですが、土間のような作りになっており、ドーナツ椅子はカタカタしたりします。壁も汚れており、電灯も年代風。お鍋は今では居なくなったという真鍮職人の打った、どこから見ても手作りと分かる、凸凹した大きな丸い鍋です。昨日久し振りに寄ることが出来たのですが、やはりウマかった。年配の兄弟で店をしており、弟さんが店主でしっかりと仕切り、おでんも作り、お兄さんはウロウロしている感じだったのですが、昨晩はお兄さん一人でせっせとおでんを作っておりました。弟さんが3月に脳溢血であっという間に亡くなったのだそうです。弟さんの方が遙かにお元気そうだったので正直ビックリしましたが、還暦を大きく超えてから突然四番バッターボックスに立つことになったお兄さんが懸命に作るお店の雰囲気とおでんの味は、また格別でした。