室生犀星の抒情小曲集の直筆原稿を犀星の故郷・金沢の室生犀星記念館が約1千万円で購入するそうです。抒情小曲集というとあの「ふるさと」の詩があまりにも有名です。
ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの。/よしや/うらぶれて異土の乞食(かたい)となるとても/帰るところにあるまじや。/ひとり都のゆうぐれに/ふるさと思ひなみだぐむ/
そのこころもて遠き都にかへらばや/とほき都にかへらばや。
この詩の中には「都」が3回出てきますが、全て金沢なのか、全て東京なのか、或いはそれぞれ金沢だったり東京だったりするのかは昔から議論の分かれるところです。「この詩はどこで詠まれたもので、どこへ帰るのか。」というのはお馴染みの試験問題です。通説は金沢で詠んで失意のうちに東京に再び帰るというものですが、犀星とも親しかった筈の朔太郎はその逆に解釈しています。このだまし絵のような不思議な感覚も、この詩の魅力の1つなのでしょう。